小説 川崎サイト

 

舞い込んだもの

 

 何もない夏。暑いだけの夏。そんな夏休みを期待していたのだが、用事が舞い込んだ。何処かから入り込んだ虫のように。
 しかし、夏も後半に差し掛かり、暑さにも飽きてきた。丁度良いので用事でもして過ごす気でいたが、やはり何もない夏の方が良い。何もしないで涼しくなるまで待つ。
 予定というのは狂う。外から入ってくる用事は見当が付かないし、まだ、時期も分からない。いきなり舞い込む。
 田中はそれで去年や前の年はどうだったのかと思い出すと、今回と同じで、何かある。やはり何もない夏の方が珍しいのだ。
 それで、その何かで夏が過ぎた。予定していた夏ではなかった。そういう夏が続いていたのだが、今年は何もないはず。
 そして後半に差し掛かっているので、前半は予定通り進んでいたのだ。ただ、飽きてきたが。
 ただただ暑いだけの夏を楽しむだけでは持たない。
 しかし、何もしないで過ごす夏も有り得ない話で、何かをしている。日常の用事以外に、好きなことをやっている。時間無制限で。
 しかし、それは暇潰しのようなもので、やらないといけないことではない。つまり、どうでもいいことで、これならできる。
 結構まともな用事よりも手間が掛かったりするのだが。
 しかし、それを用事とは思っていない。殆ど役には立たないことのためだろう。だから、気楽にできる。だが、それなりに真剣だ。
 これも真剣に挑むようなことではないので、真剣を使えるのだろう。本当に真剣に取り込まないといけないことは逆にすっとやってしまう。あまり拘らないで。
 そういう何もない自由な時間を今年こそは過ごせるかと思ったのだが、用事が複数入って来た。これで予定が狂った。
 田中はそういう巡り合わせ、予定外の出来事に対して、一寸だけ妙に思う。まあ、よくあることで、去年もその前の年にもあったので、妙でも何でもなく、普通にあることなのだが、そういう用事をあてがっている何かがあるような気がしてきた。
 これは神秘世界だ。ただの偶然で、また、あるべき偶然なので、偶然ではない。だから、神秘でも何でもない。そういう用事の割り振りをしているものがいるわけではない。
 田中が発生源ではないが、田中によって何処かで発生したものが舞い込んできているのだろう。
 丁度暑いだけの夏に飽きてきたところなので、丁度いい用事かもしれない。別に切には望んではいないが。
 
   了


 
 


2023年8月4日

 

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