小説 川崎サイト

 

下田の夏

 

 暑い時期、下田は暑さを最優先している。暑くなるようにしているわけではなく、暑さをどう避けるかを問題にしている。
 これが最大案件。最優先事項。仕事や生活もそれに沿って実行される。といっても暑いときは何をどうしても暑さからは逃れられないシーンもあるので、ただただ暑いと言っている場合もあるが、これが一番気になること。
 気にしていても、何ともしがたいときもあるが、そこではこの暑さをどう凌ぐのかが課題。策はない。炎天下、移動しているとき、策があるとすれば、裸になることだろう。しかし、それはできない。誰もいなければできるが、そんな誰もいないよう町の方が問題。
 たとえ素っ裸で移動したとしても、逆に黒焦げになるかもしれない。泳ぎに行ったときのことを思えばいい。赤くなり、触ると痛い。ヒリヒリし、その後、皮が剥ける。だから素っ裸は避けたい。実際にはできることではないのだが。
 暑さに注意深い下田なので、記録的な最高気温が出そうなときはわくわくする。体温を遙かに超える高温。その条件に挑むことになる。
 しかし、これもただただ暑い暑いとヒイヒイ言っているだけで、耐え忍ぶというわけではない。だから涼しい顔はしていない。どんな悩み事のある時よりも、表情は厳しい。
 ただ、暑すぎて、顔から表情が消えると、これは危険だろう。
 暑さだけが注目ポイントになる下田だが、意外と何も対策などしていない。ただただ暑がっているだけなのだが、たまに暑さが引くときがある。これは暑さを感じにくくなっているときだ。
 これは危険な状態だが、それではなく、暑いことは暑いが忘れているのだ。暑いと感じるのを怠けているようなもの。これは他のことで熱中しているためだろう。
 暑さよりも熱心にやるようなことがある。これは希で、長くは続かないが。
 暑い頃なので、暑い暑いとばかり思っている。注目しなくても、自然と暑さが先に来る。これは回路が早いのだろう。それと分かりやすい感覚。
 だから注目していると言うよりも、暑さが真っ先に来ているだけ。暑さに対する意識を最優先させているわけではなく、そうなってしまう。
 下田の夏。それはただただ暑苦しいだけの夏だが、非常に分かりやすい夏だ。
 
   了

 
 


2023年8月8日

 

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