小説 川崎サイト

 

師匠捜し

 

 岩田は色々な師匠を訪ね歩いている。これという人がおれば弟子入りしたい。
 しかし、帯に短し襷に長しで、岩田に当てはまるような師匠がいない。かなり探したのだが。
 人から紹介されたり、また向こうから師匠が誘いに来る。それほど岩田は優れた人で、その名は師匠達ほどではないが、その名は知られている。弟子にしたい人として。
 ただ、師匠がそれほど多くいるわけではないので、限られた世界での話。
 最初の師匠は固い。もう固まっているし、言うこことは決まっている。抜群の安定感で、弟子も多く、支持者も多い。
 しかし岩田は気に入らない。がんじがらめに締め付けられているようで、ゆとりがない。
 そこに笑いは必要ではないが、可笑しさのようなものが欲しい。かたくなな師匠で、それが滑稽に見えなくはないが。
 次の師匠はその反対で、逆のことばかり言っている。これはこれで人気があるのか、弟子も多い。確かに面白い師匠で、世間で言われていることの逆を言う。これが新鮮だったが、何でもかんでも逆になので、逆に考えればいいだけなので、逆にその師匠はいらないほど。
 さらにその中間の師匠がおり、融通が利く。極端に走りすぎない温和な人だが、中途半端で歯切れが悪い。
 しかし、その状態なら普通の人でもやっていることなので、新鮮さがない。ただ、妥当なところで程々のところで収まっており、決して悪くはない。
 だが岩田は気に入らない。そんなことなら普段からやっていることで、両極端の間を行ったり来たりしているようなもの。普通だ。
 それで岩田は最近は異端系を探している。かなり変わったタイプの師匠で、癖があり、万人には当てはまらないような。まあ、毒が多いのだろう。
 そう言う師匠を何人か訪ねたのだが、やはり臭い。胡散臭いのだ。これは信用ならん。そんな師匠の元で修行したくないし、また臭い教えなどすぐに聞きたくなくなるかもしれない。
 確かに妙な考えを持っている異端系の師匠達だが、ただの変わり者にしか見えなかった。
 それで優秀な弟子候補である岩田だが、どの師匠にもつかなかった。かなり探し歩いたので、よく調べなかったわけではない。
 岩田は弟子候補で師匠ではない。しかし、優れているので、師匠につけば、その後継者になれるだろう。
 ただ、岩田は師匠捜しにも飽きてきたのか、もう師匠など探さなくなる。
 岩田自身が師匠になったわけではないが、岩田の癖と師匠達の癖がどうも合わないらしい。
 それだけのことだろう。
 
   了

 
 


2023年9月9日

 

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