小説 川崎サイト

 

勝手に治っている

 

 放置していると治っていることがある。電化製品でもそれがあるので不思議だ。
 きっとそれなりの理由があり、カラクリがあるのだろうが、故障したと思い、そのまま放置し、半年ぶりにスイッチを入れると、治っている。
 故障する前からスイッチは入るのだが、その後の動きが悪い。使えないほど。
 変な音もするので、これは危険だと思い、田中は放置した。
 日々の暮らしや仕事で使う必需品ではないので、不便は感じなかったが、結構高価だった。そしてその電化製品の効果がよかった。この効果、なくても困らないのだが、あった方がいい。まあ、趣味に近いだろう。
 それよりも、放置している間に何故治ったのだろう。保証書もあったが、邪魔臭いので、捨てるつもりだった。しかし、なかなかゴミとして出せないまま、置いていた。
 ある日、それを手にした。普段はしない。手の届くところにあるのだが、その棚はあまり使わないものを入れる一時置き場のような棚。そこにそれを投げ入れていたのだが、どうして手にする気になったのか。
 それは待ち時間。出掛けようとノートパソコンを鞄に入れようとしたとき、更新のため再起動しなさいとなっていた。それで再起動したのだが、そこからが遅い。なかなか終了しない。起動しないのだ。
 それで他の用を少しやるが、まだ。
 他にやることがないので、その時ふっとその電化製品を手にしてみた。捨てることになるのだが、その前にもう一度触ってもいい。
 幸いバッテリーは残っていたようで、起動した。問題はそのあとだ。妙な動作音がし、故障してますよと告げられたのだが、今回は音はし、振動もあったが、そのあと治まった。まるで治ったかのように。
 故障したとき、何度も試したのだが、結果は同じ。もう手はない。そこまで試してみたので、もうやることはないので、諦めた。
 今回正常に作動した。放置していると治る。というようなことがあるわけがない。人ならその相手が変化し、関係が治ったりするかもしれないが、機械もので、しかも電気物ではそれはないはず。
 田中は喜んだ。半年間使えなかったが、使えるようになった。また、その電化製品、買ってすぐにそういう状態になった。落としたためだ。
 その傷が半年で癒えたのだろうか。そんなわけがない。それよりも、何故諦めていたそれを、その日、手にしたかだ。半年間触れたことはなかった。
 それはパソコンの更新時間が長いので、余計なことをした。触る必要のないものを触った。しかし、ノートパソコンの更新時間が長いことはよくあったが、別のことをしている。
 その日、田中は体調が悪かった。一寸しんどい日で、たまにある。それと関係しているかどうかは分からないが、体調を崩したままの電化製品をふと見たのだ。田中から少しだけ見えている。二度と見たくない品だが、お前も具合が悪かったなあと言う何かが起こったのだろう。
 それで、治っていることを知り、そしてノートパソコンを鞄に入れ、やっと出掛けることができた。
 何となくだが、体調が悪いことを忘れたような外出だった。
 
   了

 


 
 


2023年9月16日

 

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