小説 川崎サイト

 

ニュートラル

 

「今日は普通だ」
「はい」
「元気はないことはないが、それほど元気ではない。といって元気が全くないわけじゃない」
「はい」
「ニュートラルだ」
「じゃ、何処にもギアが入っていないと」
「入れていないだけ」
「でも、何処かに入ってるでしょ」
「私は車じゃない」
「分かってます」
「中間と言うことだ」
「中立のような」
「誰と」
「中間の方が分かりやすいですねえ」
「しかし、ど真ん中なんてない。まあ、あまり偏りがない程度。これはいつでも変わる。何かあるとね。だが、あまり変えたくない。どちらとも言えない状態を維持したい。どちらかに傾くと面倒だからね」
「それで今日なのですが」
「決断しないと駄目か」
「もうギリギリです」
「面倒だな。中間のままでは駄目か」
「どちらかに決めて頂かないと」
「じゃ、中立を守る」
「中立は駄目です。決めていないことになります」
「じゃあ中間で行く」
「同じです。決めていないことには変わりありません」
「今、有馬温泉と言わなかったか」
「言ってません」
「実は中間なんてないんだ」
「そうです。どちらかに決めないと」
「今、ナイトと言わなかったか」
「騎士ですか。言ってません」
「実はどちらかに傾いているんだがね。私の中間は」
「じゃ、決まっているじゃありませんか。明言を」
「明言、大層な。名言も大層だがな」
「榊原さんでよろしいですね」
「最初からそうなんだが、宣言しないといけないか」
「榊原さん寄りであることは周知の事実です」
「じゃ、わざわざ言う必要はあるまい。もう決まっているんだ」
「まだ、中間に拘りたいですか」
「だから、私の中間は、その位置なんだよ」
「榊原さん寄りでよろしいですね」
「どちらかというとね。あまり積極的じゃないが」
「では、そのように計らいます」
「今日はニュートラルなので、反対もせんし賛成もせん」
「やはりギアが入っていないのですね」
「ああ、下り坂なら進める」
「あ、はい」
 
   了

 
 


2023年9月18日

 

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