小説 川崎サイト

 

強すぎた家臣

 

 よくあることだが手柄を立てすぎた。
 主君よりも人気があるし、また人柄もいい。できた人物で、人望もある。主君の大叔父の息子なので、同じ一族。
 兵も多く持ち、この大名の主力軍でもある。領主の直属軍よりも強く、常に前線で戦い、敵を蹴散らす。
 この家臣のお陰で、領土も拡大した。そのため、主君に次ぐ大きな領土を与えられている。当然だろう。同じ一族で、重臣。頼りになる大叔父の息子だ。
「手柄を立てすぎたようですな」
「わしがやらなければ誰がやる」
「当然でございますが、ちと目立ちすぎ」
「もう、大きな戦いはないはず。わしの出番もな。だからもう目立つことはない」
「問題は跡目争いです」
「殿には立派な跡取りがおるではないか」
「お前様の息子がよろしいかと」
「誰だ、そんなことを言うのは」
「もっぱらの噂です」
「それはない」
「しかし、同じ家系。継いでも不思議ではありません」
「それはない」
「だから、このあたりが引き時。もうあまりいいことは起こりませぬ。悪いことばかりになりますのでな」
「うむ」
「力を付けすぎた家来。これは主を食う。よくあることです。だから、早い目に」
「隠居するのか」
「殿から頂いた領土、小分けしてご子息や縁者に」
「わしはどうなる」
「一ヶ村で充分。命あっての話」
「わしは狙われているのか」
「お前様が乗っ取るのではないかと」
「誰じゃ。岩田か、竹下か」
「殿も、それを信じるようになったとか。これはもういけません」
「もしそうなら、逃げ出すしかなかろう」
「本城からの呼び出しがあれば、それでしょう。やられます。だから行かないように」
「隠居届だけでいいのか」
「今なら、逃げなくても大丈夫でしょう。我が軍のほうが強いのですから」
「それで、呼び出して暗殺か」
「はい」
「よくそこまで見えておるのう」
「よくあることですから」
 隠居届と領地の小分けで難なきを得たが、その後、隣にまで迫っていた新興勢力が攻め込んできた。
 主力軍であり、精鋭部隊は解散していた。大叔父のその息子、村で兵を集めたが数十人。何ともならない。
 これはやられると思い、隠居の次は帰農した。そため、今もその豪農屋敷は何度も建て替えられたが残っている。
 
   了

 
 


2023年9月19日

 

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