小説 川崎サイト

 

おしまい

 

「島田君か」
「はい、少しおかしいのです」
「個人的体験が効いているのだな」
「そうだと思います。特殊は考えを持っているようですが、僕らには分かりません。そういうものかと思う程度で、そういう考え方もあるのだなと」
「島田君はそれを押しつけてくるのかね」
「そんなことはありませんが、どうもそれに縛られているようで」
「おかしな話か」
「一寸常識とは違います」
「離れすぎか」
「逆だったりします」
「それは皮肉じゃないのかね」
「いえ、本当に信じているようです」
「ほほう、島田君は信じるものがあると」
「僕らにはありませんが」
「私にもそんなものはない」
「でも島田君にはあるようで」
「しかし、妙な考え方なんだろ。一般的には通用しないような。だから君にも理解できない」
「理解はできますよ。言ってることは分かりますが」
「理解できるのなら、分かるということだろ」
「頭では分かりますし、理屈も分かります。しかし」
「しかしの先だね。しかしが付くと信じにくい」
「信仰じゃないですが、納得しきれないのです」
「それは島田君の体験から来ているからだよ。それが効いていると言っただろ」
「僕らには効きません」
「島田君のような体験をしていないからだ。当然だ」
「でもそれに近いものはあります。でも浅いです。島田君のように奥までいってません」
「想像はできるのだね」
「はい。しかし、実感が伴いませんから、しっくりとはいきません」
「そんなものだよ。個人的すぎるんだ」
「島田君もそう言っています。個人的すぎると」
「分かっているじゃないか。島田君も」
「何でしょうねえ」
「一人で宗教をやっているようなものかもしれん。教祖一人で信者一人。どちらも島田君だがね」
「そんな感じですが、植岡君は一寸傾いています」
「島田教にかね」
「そうです。一部思い当たるところがあるのでしょ。全部じゃないので、一寸だけ」
「植岡君に都合の良いところがあるんだろ。そこに刺さったんだ」
「しかし、どうなんでしょうねえ」
「私達はよくある経験しかしていない」
「そうですねえ」
「だから発想が違うんだ。そして根が深い」
「僕ら凡人にはついて行けません」
「いや、口に出さないだけで、特殊な体験は誰だってやっているかもしれん。言わないだけ。それを表に出さないだけ」
「え」
「それを出しちゃ、おしまいなんだよね」
「島田君はそのおしまいをやっているのですね」
「この話も、もうおしまいにしよう」
「あ、はい」
 
   了

 
 


2023年9月20日

 

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