小説 川崎サイト

 

今風物語

 

 前田は今風なものを使ったり、見たり、体験したり、観察したり、また味わったり、触ってみたりしているが、これは今、手に入るものを買ったり選んだりしているだけ。
 商品なら今、現役で売られている新製品のようなもの。古い商品でも、ずっとそのままのものもあるが、それ以上弄れないのだろう。
 しかし、パッケージが変わったり、中味も少し違っていたりする。昔からあるインスタントラーメンの銘柄などがそうだ。
 前田は新しいものに触れる度に、これが今なのかと思うわけではないが、中味は昔ほどでもなかったりする。逆に大人しく、マイルドになっていたりする。これはありがちなこと。
 しかし、昔はそれほどでもなかった箇所が拡大され、そこを広げていたりする。昔はなかった展開で、たまにはあったが、特殊だった。
 それが今では当たり前のようになっている。これも中味の一つなのだが、本命ではない。要するにメインではない。
 ただ、メインはもうそれ以上展開させると、違うものになってしまう。だから、その手前まで。ここは限界点があり、それ以上は進めない。昔はそんな状態で、何処まで限界近くまで行くのがメインだった。
 ただ、このメイン。そればかりではなく、別のメインも並行してあった。こちらは限界がどうのとかの問題はない。だから、今風なものはそちらを狙っている。
 というようなことを昼休みに前田は同僚の木下に話したのだが、木下は何のことだか分からない。しかし、言っていることは合っていたりするが、ものや事柄にもよるだろう。
 ただ、前田の言っていることは、今の風潮を少しは現しているように思われる。それで同意した。
「マイルドなんですよね、今は。そうでしょ木下さん」
「いや、世の中そちらばかりに行くと、裏でキツいことをやるようになるものですよ」
「お手柔らかにお願いします」
「私が厳しいとでも」
「いえいえ、昔ながらのやり方で、結構ですよ」
「君はそれが気に入らないのだね」
「そんなこと、言ってませんよ」
 二人は同じ地位、同僚だが、上下関係がある。
「ところで木下さん。お昼はいつもこの喫茶店のランチ定食ですか」
 木下は毎日来ているが、前田は誘われたので、今日は来ている。一人では入る気がしない。喫茶店なので。
「飽きないよ。ここのランチ、日替わりだからね。といっても似たようなものだが」
「ずっとここなんですね。お昼は」
「少し高いがね。そして量も少ない。しかし、珈琲が飲めるので、食後くつろげるよ。普通の定食屋じゃそうはいかない。それに相席だしね。安い店は」
「僕はその安い定食屋をあちらこちらと行ってます」
「ここは古典を踏んでいる」
「踏むんですか」
「入社してから来ているが、ずっと同じだ。変わったのは値段ぐらいかな」
「あ、もう時間です」
「さっきの話だけどね。結局何が言いたかったんだ」
「時間がないので、また」
「そうか、じゃ、出よう。遅れるとまずい」
「はい」
 
   了

 


 


2023年10月1日

 

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