小説 川崎サイト

 

籠城戦

 

 白峰城は山城。本城の出城のようなものだが、ここを抜かないと、敵は先へ進めない。
 水汲みで城外に出た小者が城から来る城兵と出合う。同じ白峰城の者だ。
「打って出るのですかな」
 それにしては一人だ。しかも足軽。これは近くの村の百姓だろう。
「出る事は出るが」
「ああ、そういうことですか」
 城の水汲み小者、たまにそういう兵をよく見かける。
 城内の井戸が涸れそうなので、谷川の水を汲んで運ぶのが役目。山道なので、多くは運べない。そのため、何度も何度も汲みに行く。
 そこはもう城外。敵が包囲しているのだが、ゆるいし、見て見ぬ振りをしてくれる。そういう城からの間道がいくつかある。道とは言えないものだが。
 包囲軍の大将は敢えて退路を作っているのだ。兵糧も運び込まれるのだが、それも無視。どうせすぐに落ちる城。長期の籠城戦ではない。
 包囲軍の大将は城兵が減るのを待っている。退路を作ったお陰で、城兵も逃げやすい。
 腹を減らすのではなく、兵を減らす。そういう作戦だ。
 こんな山城をまともに攻めれば被害も出る。無傷のまま本城へ向かいたい。この出城、無視してもいいのが、挟み撃ちにあう危険性がある。そのためにできた城なので、城主も心得ている。
 最近、城から抜け出す兵が増えた。退路を開けていたのが効いているのだろう。それに包囲側は攻撃してこないことも。
 水汲みの小者も、もうそろそろだなと思い、仲間を募って、城から出た。
 そして残ったのは城主の一族だけ。
 その一族は縁の遠い順に消えていった。
 この分では城主だけになるのではないかと思えるほど。実際、それに近かった。
 これでは城を守っても仕方がないと思っているところに、使者が来た。
 城を明け渡せば追放だけで済ますというもの。首まで差し出せとは言わなかったので、城主はすぐに城を出た。
 付き従うものは家族と、小者だけ。側近や昔からの家臣はとっくの昔に逃げていた。
 
   了

  



2023年10月5日

 

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