小説 川崎サイト

 

直感

 

「証明できますか」
「いいえ」
「裏は取れていますか」
「いいえ」
「じゃ、説明できますか」
「いいえ」
「じゃ、どうしようもないじゃないですか」
「だから、もういいです」
「できれば採用したい。それを使いたい。他の方法がないのでね。しかし、説明もできないことではねえ」
「だから、いいです。なかったことに」
「私はいいが、周囲が納得しない」
「何かないかと言われたので、言ってみただけなので、もういいです」
「ケチを付けているわけじゃない。いいアイデアだ。その手があったのかと思うほどのね。しかし、説明ができない」
「証明もできません」
「ただの思い付きでしょ」
「そうです」
「やはりねえ」
「何でもいいので、何かないかと聞かれたので」
「でもいい加減なものじゃ、困る。しっかりとした裏付けのあるものでないと」
「ありません」
「じゃ、君はどうしてその方法を見付けたのかね」
「何となく、これじゃないかと」
「何となく?」
「はい」
「頼りないねえ。何となくじゃ。根拠になるようなものあれば多少はましなんだが、あるかね」
「ありません」
「じゃ、何だ、その発想は」
「カンのようなものです」
「直感か」
「何となく、浮かび上がったので」
「それじゃ駄目だな」
「はい、言わなかったことにします。余計なことを言ってしまいました。すみません」
「これで裏が取れればいいアイデアなんだけどねえ。根拠もないし、説明もできない。使いたいんだけどねえ」
「じゃ、お使いになっては」
「そうはいかん。いろいろと考えると、そんなことはできない。当然でしょ」
「でもいい考えだと思われるでしょ」
「まあね。そこが一寸気になるが、まあ、無理だな。私だけが賛成しても」
「じゃ、これで」
「待ちなさい」
「あ、はい」
「何でもいいから適当でいいから、説明のようなものをしてくれないかな」
「説明できません。過程がありませんから」
「何でもいい。適当でいい」
「嘘の報告になりますが」
「嘘のような方法、アイデアだろ。だから説明も嘘でいいんだ」
「裏が取れていません。それも嘘を」
「形だけのことだ。一応提出してくれ」
「いいんですか。インチキですよ」
「他に手はない。君の直感を信じるわけじゃないが、何か提出しないとまずのでね。おそらく却下されるだろうが、それでいいんだ」
「了解しました。そのように取り計らいます」
 
   了

 


2023年10月15日

 

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