小説 川崎サイト

 

古田の神帰し

 

 古田神社は盆地にあるのだが、それなりに高低差がある。しかし山はない。当然だろう。一応そこには平野名が付いている。
 しかし、古田神社のある場所は一寸した山の下。丘よりも高いが、目立つような山ではない。盆地の周囲は当然山が壁のようにある。その山の続きかもしれない。盆地が水没すれば、その小高い山のようなものは島のように残るだろう。
 古田神社の由来は適当で、その都度変わるようだ。しかし、この地の神様、地神のようなものを祭っているらしいが、表立ってではない。
 裏で祭っているわけではなく、隅っこの方に小さな祠となって今も残っている。こちらがメインの神様なのだが、流行らないのか、地味なのか、横に置かれてしまった。
 新たに祭っている神様もよく分からない。これはこの盆地を治めていた大名の関係だと言われている。その神様は大名家の先祖神。古くから信仰していたらしい。盆地を領していたが、土地の人ではない。
 明治になると、メジャーな神様を祭るようになる。大名家の神様は全国区ではなかった。
 それでも、それ以前からいた神様、それが土地の神様だが、この神社の祭りでは欠かせない。固有の行事で、ここでしかやっていない。
 神が降りてくるのを阻止する行事。逆ではないかと思われるが、神さんは山から下りてくるが、盆地内の小さな山から来るのだ。その神ではないと言うこと。
 つまり、もっと奥山から来てもらわないといけないのに、近すぎるのだ。だから、その神様、偽物扱いで、逆に禍をもたらすとされ、その年の決まった日に、丘の上から降りてくる神様を追い返す慣わしがある。
 それは鬼の格好をした人達が、大勢集まり、通さないようにする。その中には子供もいる。押しくら饅頭のように、押し返すのだ。その神様、当然一人で、眷属もいない。
 ただ、この神様、悪い神様ではなく、奥山にいる神様と同レベルで、同種なのだ。しかし、それでは浅すぎる。盆地の中の小山、それは誰でも登っているし日常の中にある。そんな低い山にいる神様では頼りないのだ。
 この行事、追い返すだけで終わる。逆に盆地の外の山から神を迎え入れる行事などはない。それをするのは盆地内の村々の神社で、古川神社は扱わない。盆地の地神様専用のため。
 ところが、その地神様、謂れは忘れられ名前さえない。地神だけに地味。地鎮祭のときの神様ではない。
 ただ、神を追い返す行事だけは残っており、小山の頂上まで押し返したところで、神社の太鼓と頂上まで運び込んだ太鼓が同時に響く。一寸した共振が起こり、その振動が快いようだ。
 鬼が神を追い返す。妙な祭りだ。
 
   了


 


2023年10月21日

 

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