小説 川崎サイト

 

暗雲

 

「陰ってきましたなあ」
「これは雨になりますよ」
「このところ、晴れが続いていましたので、このあたりで下り坂でもいいでしょ」
「しかし、嫌な陰り方ですねえ。この雲は」
「いきなり黒い雲が出てきた感じですなあ」
「暗雲立ち籠めるですよ」
「縁起が悪そうですなあ」
「まあ、空が心配事で機嫌が悪いわけじゃないですが、何か異変でも起こる前触れかもしれませんよ」
「空の異変ですか」
「空の下。天の下。つまり天下騒乱とか」
「ああ、地上のことですな」
「しかし、空は陰っても雨が降るか、風が強い程度でしょ」
「そういえば、嫌な風が吹いてましたなあ。あれが強くなるのですねえ」
「風は風、雨は雨ですから、関係はないかと思いますが、何か嫌な感じですねえ」
「陰ると言いますか、勢いがなくなる感じが不吉ですよ」
「何か、思い当たることでもあるのですか」
「いや、天は天、人は人ですから、紐付きじゃないと思いますが、悪いことでも起こりそうな」
「思い当たることでも」
「色々とあります。あれが悪くなるとか、これが面倒なことになるとか、考えてみればいっぱいありますが、これは取り越し苦労ですが、雰囲気だけはあります」
「何が起こるかは分からないと」
「あなたは」
「一寸トラブルがありましてね。今まさに暗雲の中。これ以上悪くならないと思いますから、この黒雲、時の神かもしれません」
「嫌な黒雲が時の神」
「嫌なことがある時、逆にこの黒雲、よく効いたりします」
「さらに悪くならないのですか」
「これ以上悪くなりませんから、そこは大丈夫」
「しかし、この風、雨を呼んでますよ。降りそうです」
「そうですなあ。そろそろ戻りますか」
「はい、そうしましょう」
 
   了




2023年10月30日

 

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