小説 川崎サイト

 

友よ静かに帰れ

 

 高橋は調子の悪い日は予定を変える。それは朝起きたとき、何となく分かるし、しばらくするとより明快になる。今日は調子が悪いと。
 それで高橋はいつもやっている日課の一つを減らしたりする。調整だ。これでゆっくりできる。また日課の一つ一つを目一杯やらないで、適当なところで切り上げている。最低限のものでいい。一応日課を果たしたことになるので。
 そして大層なことはできないので、やや消極的なやり方になる。元気なときとはコースが違うと言うより、安易なものを選ぶようだ。楽な方を。これもやらないよりもいい。一応目的は果たしている。
 要するに調子の悪いときは無理をしない程度のことで、誰にでもできること。そのため凄い発想ではない。
 しかし、そんな日に限って面倒な友がやってきた。こんな日に来なくてもいいのに。
 その友、元気そうで絶好調。高いテンションから振り下ろしてくる言葉には勢いがあり、それを受ける高橋は痛い。
 受けるだけでも精一杯で、これだけでも疲れる。返事や受け答えなどできないほど。そして顔は笑い顔で、愛想よくしているが、作り笑いなので、顔の筋肉がだるくなるし、余計な血をそこで使っているような感じ。別にそれで貧血にはならないが。
「どうだね、高橋君。さっきから聞いているだけで、何も言わないけど」
 双方向のキャッチボールが高橋はキャッチャーに徹している。そして緩い球を友に返すだけ。
「どうかしたの」
「一寸調子が悪いんだ」
「起きているじゃないか」
「寝込むほどのことじゃない」
「じゃ大丈夫だね」
「でも、調子が出ないので」
「あ、そう。まあいいけど」
 友はそのあとも一方的に自分の話ばかりし出した。前回会ってからのエピソード集のようなもので、元気にしていると言うことだろう。つつがなく。
 高橋の相づちが弱くなり、生返事のようになってきたので、さすがに友も、このあたりだろうと思い、帰ることにしたようだ。
 しかし、それほど長い時間ではなく、出会い頭の挨拶程度。本題には入れなかったようだ。
 その本題。本当の要件はあとで分かった。
 その友は別の友にその要件を頼んだようだ。高橋ではなく。
 調子が悪いとき、逆に助かったようなものだ。その要件、もし受けていれば、災難に属するはず。
 しかし、調子が悪いときなので、友の訪問でかなり疲れた。
 
   了


2023年11月3日

 

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