小説 川崎サイト

 

府柿のあやし道

 

 府柿のあやし道というのがある。怪しい道だ。
 府柿は土地の名で、そのあやしの道は府柿から離れた山の中。しかし、府柿から出ている道なので、この道を府柿の道とされている。
 府柿は柿が多い。柿の産地とまではいかないが、売る家もあるし、干し柿が軒や庭につるされている。
 そういうことから府柿のあやし道には柿の化け物が出る。カボチャではなく。
 これはこじつけに近い。府柿だから柿と。しかし、府柿は府垣と記録にある。これが一番古い言い方で、当時はフカキだが、いつの間にか府柿と書くようになりフガキと濁った。これは柿を特産品にしたかったのだろう。村が変えたのではなく、領主が変えた。
 元々は府垣。これは垣根のことで、大昔、府垣の近くに役所のようなものがあった。府庁と呼んでおり、この府庁の山側の守りとして府垣があった。つまり府の垣根なのだ。
 そこから山に入ることができるのだが、その先はまつろわぬ者が住むところと接していたらしい。
 そこへ通じるのが府柿の怪し道と言われている。柿ではなく本当は垣だが。
 そういうまつろわぬ者がいなくなってからかなり経つと、もう府庁もなくなり、柿の多い農村だけが残った。そこから垣から柿へと代わり、府柿のあやし道の柿の妖怪が生まれた。
 この道にも、里近くでは柿の木が生えており、秋になると、道にその柿の実が落ちていることがある。
 そいつが柿ではなく化け物なのだ。拾おうとすると、すっと逃げる。転がるように。横向きになった状態でゴマのように。
 それ追いかけると、道から逸れ、草などの隙間を強引に転がり抜ける。これはもう柿の動きではない。
 そして道からかなり逸れたところに、大きな柿がドカンとある。柿の実の親分のように。
 さすがにここまで大きいと化け物だ。そんな大柿が実ったとしても柿の木の枝が折れそうだ。
 だからこの大柿、柿の木の実ではなく、別物。
 そういう大柿がいくつも点在している。まるで巨石群のように。
 土地の人は、昔いたまつろわぬ者の首だといっている。
 ただ、それらは言い伝えであり、実際にそんなものがいるわけがないので、作ったのだろう。
 
   了


2023年11月10日

 

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