小説 川崎サイト

 

あるはずないはず

 

 あるはずのものがない。ないはずのものがある。上田がそう思い込んでいるためかもしれない。あるはずだと、ないはずだと。
 これはあるなしの判断が甘かったのか、またはサッとそう思っただけで最初から間違っていたりする。
 だからあると思っていたのにない場合、最初からなかったのだ。
 しかし、最初にあると思ったのは勘違いだとしても、どう違えたのだろう。あると思いたい、あった方がいいという下心というか下地があるので、浮かび上がったのか。
 だが、いくら想像でもないものは浮かび上がらない。錯覚ではなく、それは妄想に近い。種がないので。
 つまり具体的なものが少しでもあれば見間違えることはある。
 だから上田の勘違いで、別のこと、別の場所のことと違えたのだろう。それですっきりするのだが、原因が思い当たらない勘違いもある。
 あるはずなのにないと言うのが謎のまま。また、ないはずのものがそこにあるというのも同じように謎のまま。きっと理由があるはずなのだが、見当が付かない。これはスッキリしない。
 そうなると、あるのにないは、本当のことかもしれない。その可能性もある。これは抽象的な意味の世界ではなく、テーブルの上にいつもある鉛筆がないと言うこと。
 これは鉛筆を移動させたのだろう。使ったときに戻していないとか。これは調べれば分かる。また思い出すこともできるだろう。または何かに触れてテーブルから落ちたとか。
 これはテーブルの下を見れば分かる。見つかれば、そういうことだったのかと謎も消える。
 しかし、いくら探してもない場合、これはあやしげな理由も出てくる。その鉛筆、胸のポケットに入っていたとすれば円満解決。
 テーブルの上の鉛筆が勝手に動き、少しだけ位置が違っていたとしても気付かなかったりする。鉛筆はそこにあるし、置いた覚えのないところに飛んだわけではない。少し位置が違っているだけなら意にも留めない。
 また鉛筆を常に注意しながら見ているわけではないので。当然誰かが使うために移動させて消えたのかもしれないが、上田は一人暮らしで、猫もいない。
 理由や原因は分からないが、現実としてそうなっている場合、あるのならあるとするしかない。ないのならないとするしかない。ただ、納得できないが。
 しかし、原因が分かれば何でもないこと。そして、ああそうだったのかと理解したい。それでスッキリする。氷塊。
 テーブルの上の鉛筆なら見えている世界なので、分かりやすいが、見えていない世界、覗くことが難しい世界では、あるがないになっていたり、ないがあるになっていたりしても、調べるのが難しい。
 ほとんどは思い込みや錯覚だったとしても、本当の理由は闇の中で、一生分からないかもしれない。では、その本当の理由とはなんだろう。
 他に該当するものがないだけかもしれない。
 
   了



2023年11月27日

 

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