小説 川崎サイト

 

一寸

 

 一寸した変化でも流れが変わる。
 雰囲気とかムードが。これはいつもの世界が一寸変わる。ただ、この世界、個人的なものだ。枠は小さいが、そこから見ているだけ。
 一人ひと枠があり、そこからリアル世界を見ているのだが、それは実際には見えない。枠の中の世界しか見ていない。その枠を通して実際の世界を見ているのだが、世界は枠の中にあるとしか思っていない。実際に世界は今見ている世界では全く感知できないためだろう。枠を通してでないと。
 そのため、枠内である高田の世界での一寸した変化は大きい。全世界に影響するほど。ただ、宇宙の果てまでは及ばないかもしれないが、それは高田の枠の中の世界で宇宙をどう思っているのかによる。
 星々がただの点だとずっと思っているのなら、それが宇宙だ。しかし、一般常識として宇宙のあらまし程度は知っているだろう。自分で夜空を見て確認したわけではないが。
 そういう大がかりな話ではなく、箸が転ぶだけで笑う小娘のような話。その程度の一寸した出来事に類するが、箸は箸の話としてその後、尾を引かないが、大きく引くような出来事があると、一寸気になる。
 それが一寸したことでも、その延長線上にあるものを想像してしまう。一寸したことが一寸したことで済めばいいのだが、一寸が数センチになり一メートルになり、どんどん一寸ではなくなる可能性もある。
 箸はそれ以上転がらないし、小娘もいつまでも笑っていないが。
 高田の日常範囲内では、この一寸が無数にある。取るに足りぬ一寸から、もしかすると発展するのではないかと思われる一寸。
 逆に一寸した良いことが、その一寸だけで終わらず、まだまだ伸びていくとなると、これは期待ができる。
 しかし、一寸は一寸で終わることが多い。だがその一寸がスタートで、高田の世界が変わる可能性もある。だから一寸した変化に注意深くなる。これは良いことよりも悪いことが多い。
 一寸そこまで買い物にとか散歩で一寸が旅に変わる可能性は少ない。
 一寸旅に出るのはいいが、帰ってこないほどの長旅なら一寸ではない。
 高田は枠内での世界で暮らしているようなもの。高田ワールド。一寸した変化から枠組みが変わってしまうこともある。
 実際には枠も変わっていくので、子供の頃の枠と大人になってからの枠組みは違っている。いろいろと組み直されているため。
 その枠、大きくなったのか小さくなったのか分からないが、都合に合わせて成り行きでそうなったのだろう。
 その成り行きは一寸したことで変わり始める。しかし、一寸したことは多いので、どれが本命なのかはもう少し見ていないと分からない。
 小事の中に大事が潜んでいる。
 
   了

 


2023年11月28日

 

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