小説 川崎サイト

 

人助け

 

「足りないものはありませんか」
「全部足りない。全て足りない」
「それはお困りですねえ」
「困っているが、ないのだから仕方がない」
「私が一つ助けましょうか」
「だから、一つぐらい足りても似たようなもの」
「そうですか。人助けが趣味でしてね。何かさせていただけませんか」
「趣味?」
「はい、他意はないのです。人助けをすると気持ちがいいので、ついつい癖になりまして」
「いい人なんだ」
「そう思われると、気持ちがいいです」
「でも助けるのは大変だろ」
「大きな事はできませんが、小さな事もできません」
「じゃ、役に立たないじゃないですか。それじゃ助けられんでしょ」
「そうですなあ。しかし、話を聞くことはできます」
「でも実際に助けられないんだから、話にならんよ」
「でも話すとスッキリする人もいます」
「わしは本当に助けてもらわんとスッキリせん」
「じゃ、一つだけ助けます」
「大きいことも小さいこともできんのだろ」
「中ぐらいのことはできます」
「できるんじゃないか」
「はい、でも中途半端で」
「途中までか」
「はい、冷やかしになります」
「期待させておいて、できなかったじゃ話にならん」
「そういわず、一つ私にやらせてください。助けたいのです」
「一つぐらい解決してもどうにもならん。いっそ全て足りない方がスッキリする」
「私を助けてください」
「それは逆じゃないか」
「足りないのです」
「何が」
「助けを求めている人が」
「何もできないから、あなたには頼まないのでしょ」「お願いですから、助けさせてください」
「それは先ほど断った。それにできないのでしょ」
「これは好意です」
「いい人だとは分かりますがね」
「何とかならないものでしょうか」
「聞かないで、勝手に助けりゃいいことでしょ」
「それではお節介になります。了承を得て助けたいのです」
「困った趣味ですねえ」
「喜んでもらいたいのです」
「今、わしは困っておるぞ」
「それはいけません。何か手助けを」
「さっさと、どこかへ行ってくれ。それで助かる」
「やっと人を助けるお手伝いだができました。では立ち去ります」
 
   了


2023年12月1日

 

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