小説 川崎サイト

 

同じような

 

 違いはあるのだが、同じようなものとして捉える。それは「ようなもの」で、そっくり同じではない。だから違いはある。
 しかしそれほど違いがなければ、ほぼ同じ。だが、あきらかに違いは分かる。ただ、それでどうかするわけではなさそうな程度の違い。
 岩田は自転車を止め、ポケットからタバコを取り出した。まだ一本残っていた。昨日も同じ場所でタバコに火を付けたとき、まだ一本残っていた。違いがあるとすれば、何本残っていたかだ。
 予備でもうひと箱、鞄の中に入れているので、この違いで困ることはない。
 店屋の前で自転車を止め、買い物をし、出てくると岩田の自転車がない。よく行く店だが、毎日ではない。しかし、その日は前日にも同じ時間帯に来ている。
 自転車は消えたわけではなく、転倒していた。それが岩田の自転車だとは思えなかった。そんな角度から見るのは初めてだったため。風で倒れたのだろう。
 これは昨日とは大いに違うが、別に問題はない。
 そのあと別の店へ行く。少し経ってからだ。ここへは毎日行っている。大きな駐輪場があるが空いているところは日によって違う。だから、同じではない。
 しかし駐輪場に自転車を止めることでは同じだが、実際には違っている。
 そして岩田は鍵をかけようとしたが、スカスカでかからない。どこかの留めがおかしいのだ。先ほど転倒していたが、打ち所が悪かったのか。
 それで鍵をかけないままにしていた。先ほどの店ではかけていないが、こちらの店は大きいし、少し離れるので、かける癖ができていた。一寸離れる程度ならかけない。
 それで駐輪場に戻ったとき、自転車がないと、盗られたのではないかと疑うだろう。もし盗難に遭っておればいつもの繰り返しではなくなる。歩いて帰らないといけないので、一寸違う日になるし、自転車が消えた日となり、これはいつもから離れる。
 歩いて帰るだけならいいが、新しい自転車を買わないといけない。どこで買うか、どんな自転車を買うかを考えることになる。毎日考えていることではない。
 だからいつもとは違う。だが、それほどの重大事ではない。買えば済むことだ。これはめったにないが、たまにあることで、岩田も何度か経験している。ただ店屋の駐輪場でなくしたことは一度もない。
 幸い、自転車はあった。鍵のかかっていない自転車なので、乗り去られても仕方がないかもしれない。
 そして、その翌日、同じ所に自転車を止めた。空いているところが違うので、別の場所だが。
 そして鍵をかけようとした。かからないことは分かっていたが、キーを差し込んでからぐっと回すと、かかった。これで難無きを得た。それまではいつもとは一寸違っていたが、鍵をかけることができたので、いつもの状態に戻れた。
 このような一寸した変化は一日中起こっている。前日と同じことを繰り返していても、一寸違うのだ。だが、大きくは外れないので、同じような日々と言っているだけ。
 わざわざ人に話すほどのことではないだろう。だから同じようなと曖昧に言っている。あくまでも、「ような」で、そっくりコピーできているわけではない。
 一寸の変化が、その後の流れ、つまり、「いつもの」、そのいつもを変えるとか、無理にでも変えないといけないこともあるだろう。
 
   了


 


2023年12月5日

 

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