小説 川崎サイト

 

リアル

 

「久しぶりですねえ」
「はい、ご無沙汰していました」
 日下は仕事で久しぶりに村岡と会った。一寸した打ち合わせ。
 メールや電話でも済むのだが、たまにはリアルで会った方がいいだろうと言うこと。
 だから実際に会うのは久しぶり。といっても一年ぶりなので、互いの顔が変わったわけではない。これが十年ぶりだと、お互いに老けているだろう。一寸雰囲気が変わっていたり。
 打ち合わせは単純なもので、込み入った話ではなく、メールでも済むようなこと。
「よろしくお願いします」
「はい分かりました」程度のやりとりに近い。
 そのため、用件はすぐに済んだ。
 そして雑談となる。
 天気の話が済んだあたりで、日下は聞いてみた。
「たまには生の顔を見るのもいいからですよ」
 メールの向こう側の顔、電話の向こう側の顔は最新バージョンではないと言うことか。
「直接この距離で会っていますとね、伝わるものが違うのですよ」村岡が言う。
「ああ、全体の雰囲気とか喋り方とか表情ですか」
「それもあるのですが、何かが出ているのです」
「鼻水とか」
「それもあるかもしれませんが、まあ、古くから言われているオーラーのようなものです」
「僕にはそんなオーラーはありませんよ」
「気のようなものです」
「そんなものが出ているのですか」
「後光が差すようなオーラーとかも、実際には分かりませんよね。でもそう思って見ると、見え方が変わりますが」
「何でしょう。それは」
「気を出し合っていて、受け取り合っているのです」
「そういう話ですか」
「ですからそれは電話やメールでは受け取れませんし、こちらからも出せません」
「ああ、それでたまにリアルで会った方がいいと」
「そうです。しかし、何も感じませんがね。分かるのは五感で感じることだけですから」
「そういうこともあるのでしょうねえ」
「そうです」
「元気をもらうとかはどうでしょう」
「もらえません。それは錯覚です。まあ、それで元気になるのならいいですがね」
「じゃ、こうしてリアルで接するメリットは何処にあるのでしょうか。あ、別にケチを付けているわけじゃないですよ」
「さあ、それは分かりません。でも」
「でも?」
「でも、何となくそうした方がいいと思いまして」
「はあ、何となくですか」
「はい、何となく」
「いや、こうして雑談するのもいいですね。やはりリアルの方が情報が多いってことですか」
「まあ、そういうことです」
 
   了


 


2023年12月6日

 

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