小説 川崎サイト

 

神の秘

 

「次は妖怪ではなく、神秘的な分野でお願いしたいのですが」
 妖怪博士の担当編集者が路線変更のようなことを言い出した。
「それはかまわんが、妖怪も神秘も似たようなものでしょ」
「妖怪という形を取らないところが今の神秘事情です」
「神秘にも事情があるのかね」
「世相です。世の中の変化で妖怪の形を取りにくいのです」
「そうだろうなあ。神妙性がない。妖怪では。まあ、妖怪は神の妙でもあるのだがな」
「妖怪よりも今の神秘ごとは幅が広いのです。それが従来の神秘ごとに取って代わられています。大昔から神秘ごとはあったのですが、妖怪は昔ほど活躍していません」
「神秘とは神の秘と書くが、神レベルの話かもしれないねえ」
「そしてですねえ」
「まだ、あるのか」
「神秘ごとは神秘家がやってましたが、今は普通の人たちがやっています」
「そうなのか。昔も縁起を担いだり、迷信を信じておっただろ。これは普通の人で神秘家ではない」
「そしてですねえ」
「まだあるのか」
「科学では説明できないところに触れて来ています」
「まあ、科学などできたのは最近じゃろ」
「はい、さらに科学の最先端が意外と神秘的なところと接触しているようです」
「じゃ、全部が全部神秘じゃな」
「神の秘密を暴こうとしているのです」
「暴くのか。悪いことでもしておったのか」
「分からないことは神のみが知るです」
「遠い話じゃな。妖怪も正体が分からんし、なぜ妖怪が出現するのか、その出現の仕方も分からん。全て謎。原因はあるのかないのか、それも分からん。山に木が生えるように妖怪も沸く。しかし山とは何か木とは何かの根本までは分からん。木の根っこを掘り返してもな」
「そうですねえ。全てが神秘的だと言ってもいいようですねえ」
「いろいろと解釈はできるがな」
「それで分かった気になれるんですね」
「少しは安心する。神秘に蓋ができるのでな」
「その意味で妖怪とは何でしょ」
「どの意味でかは知らんが、妖怪とは化け物。これは常識を覆す存在。これが飛び出すとある意味爽快」
「路線変更で妖怪以外の神秘ごとをお願いしようと思ったのですが、妖怪でいいです」
「気が変わったのか」
「はい、妖怪からの切り口もあるのだと」
「万物、森羅万象、いずれもそれに関係する妖怪がおる。科学の最先端でも薄気味の悪いことが起こっておると聞くぞ」
「何でしょうねえ」
「神の隠し事じゃ」
「神の秘密ですねえ」
「だから、神秘。そのままじゃがな」
「はい、冗談で済ませられる路線でこれからもお願いします」
「それは冗談で言っておるのですな」
「いえ、本気です」
「ふむ」
 
   了

 


2023年12月23日

 

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