小説 川崎サイト

 

年の暮れ

 

「今年も終わりますなあ」
「そうですねえ」
「今年はどうでした」
「相変わらずですよ。これといったこともなく、過ぎ去ろうとしていますよ」
「まだ少し日がありますから、まだ何が起こるか分かりませんよ」
「何が起こるのでしょうなあ」
「さあ、それは起きてみなければ分かりませんよ」
「ああ、これが来たか、というような」
「そうです。でも考えもしなかったこと、これはないだろうというのがあります」
「これまでの暮らしぶりが原因になっていないような?」
「あとで考えれば、原因はあるのかもしれませんが、それなら予測できる。思い当たる。しかし、そうではなく因果の外から来ているものもありますからねえ。そういうのは想像はできますが因果としては遠すぎるものです」
「天地異変とか」
「火災に巻き込まれるとか」
「災難ですなあ」
「想像はできますよね。それは」
「はい」
「そうではなく、もっと意表を突くようなのが来たりしますよ」
「思いがけないものですね」
「そうです。まあ誰だって、そういうのが来るのかもしれません。本人にとってですがね」
「病が出るとか」
「それもありますが。まあ、悪いことばかりじゃないでしょ。それこそ棚ぼたが来るかもしれませんしね」
「ぼた餅ですか」
「お好きですか」
「甘いのは好きですが、多いと駄目です。ほどよい量がいいです。巨大な紅白まんじゅうは駄目です。アレは飾り用で、食べるような饅頭ではないでしょ」
「切り分けて食べればいいのですよ。五人とかで割れば、小さくなりますよ」
「ああ、それなら適量」
「まだ今年は終わっていません。何も起こらない方がいいのでしょうがね」
「困った年になり、何とかならないものかと暮れていくとき、何とかなる話に出合ったとかならいいですね」
「何か困りごとでも」
「いえいえ、困りごとは多いですが、大したことじゃありません。そういうのは些細ごと。雑ごとですので」
「災いも幸いもない方が静かでいいと思いますよ。ざわつかないで年を終え。ざわつかないで新年を迎える。これが一番でしょ。現状は変わりませんがね」
「最近はクリスマスもお正月も楽しみではなくなりました。子供の頃に比べてですがね」
「大人になると、そんなものでしょ」
「プレゼントをもらったり、ケーキを食べたり、正月はお年玉をもらって。おもちゃを買いに行ったりと、これは楽しみでしたよ」
「早く来い来いお正月ですね」
「クリスマス、誰かに何かをプレゼントしますか」
「しません。そんな相手はいませんから」
「お年玉は」
「やる相手がいません」
「じゃ」
「はい、まだサンタからもらう方で、お年玉ももらう方です」
「あなた、何歳ですか」
「あ、はい」
 
   了

 


2023年12月26日

 

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