小説 川崎サイト

 

予想外の遭遇

 

 思わぬものと遭遇することがある。待ち望んでいたことではなく、その可能性などないに等しいので、待機していたわけではない。
 またそれと遭遇するような仕掛けもないし、準備もない。所謂想定外という想定内のことだが、場というのがある。その場におれば遭遇するかもしれない場、場所。
 田沼はいつもそのような場にいるのだが、予想していたものではない。こう言うのはどちらが驚きが大きいかだ。
 予想していたものは遭遇したとき、それは当然のようなことで、やはり来たかと言うこと。だからその場に出現するはずのものなので、希望通りになったので、満足を得られる。
 しかし、当てにしていなかったものが現れると、これはショックなようなもの。何だろうと最初は思う。こんなものがあるのかと。想像だにしていなかっただけに、特別な感慨になる。
 そして感慨にふける以前に、これはどうしたことなのかと、その原因を考えたりする。しかし、目の前にそれがいる。来ている。予定外、予想外。
 それだけに驚きも大きい。それが来る可能性など考えていなかったので、その効果も大きい。
 世の中にはそういうことがあるのだなと田沼は驚かずにはいられない。そこから感慨となる。これは心に深く来る。予想されたものが来たときよりも。
 そしてなぜそれが現れたのかと考えると、それなりの事情があったのだろう。二度と見ることはなく、またその後の展開は何もないはずで数年前に終わっているはず。
 その日はクリスマスイブ。まさかサンタからのプレゼントではあるまいが、年に一度あるかないかの出来事に近い。
 それは宝物のように大事にしまい込み、最高のものとして君臨していたような存在。それは田沼にとっては一番のもので田沼を象徴したようなものかもしれない。
 しかし、それは終わったこととしてしまい込んでいる。ただ気持ちの中ではよく思い出すので忘れ去ったものではなく、今も生きていた。ただ田沼の中だけに。
 それが姿を現した。それはびっくりするだろう。しかもイブの日に、夜ではなく昼のことだが。これは何かの巡り合わせかもしれないが、宝物が増え、その続きがまだあることで生き返ったようなもの。
 思っても見なかったものとの遭遇。これはたまにあることで、意外なことではないが、時期的な何かを示唆しているようなところもある。
 ただ、そう考えるだけで、田沼が勝手な筋書きを作っているだけ。それが田沼を成り立たせているのだろう。
 ただ、その筋書き、物語。つじつま合わせや強引な接続などは人に言えない。
 
   了
 


2023年12月27日

 

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