小説 川崎サイト

 

ある選択

 

「島田君の意見は暗いんだよ」
「そうですねえ、三宅君は明るい」
「しかし、島田君の意見は深い」
「だから暗いのでしょ」
「深いと暗いか」
「深淵は暗そうです」
「だが、島田君も明るい三宅君も似たようなことを言っている」
「島田君の方が深いのでしょ」
「そこまでの深さは必要かどうかだね」
「でも島田君は真理を突いているような気がしますが」
「そこまでの真理はいらないよ」
「では三宅君で行きますか」
「マイルドで、分かりやすい」
「言っている意見は同じようなものですが」
「いや、大きな違いがある。三宅君の方が広い」
「でも、浅いんでしょ」
「浅いところまでしか語っていないだけ」
「島田君はそこを語っているのですね」
「それが苦しい。聞くものとしてはね。それが真実だとしても、それでは暗くなる」
「暗いのは駄目ですか」
「悪くはないが言い過ぎるとね」
「でも三宅君にも暗い箇所があるでしょ」
「それを暗いとは言わない。暗さを感じさせないで光を常の灯す。これで照明がいいのでいい感じなんだよ」
「照明係がうまいのですね」
「明るく語ろうとしている。突き落とさない。ここだね島田君と違うのは」
「言い方だけの問題じゃないかと思いますが」
「まあ、中身もかなり違うことは確かだが、似ているのも確か。しかし、別物だね。別の路線だろう。扱っているものは同じだけどね」
「それでどちらを採用します」
「当然、三宅君だろう」
「口当たりがいいからですね」
「喉ごしスッキリだ。今に合っている。それと三宅君の方がオリジナリティーが高い。島田君の意見は他のの人も言っている。しかし三宅君の意見は他では聞かない。独自なものだね。本当の採用理由はそれかもしれない」
「従来あるものを新たに言い換えているだけではないのですか」
「いや、聞かない。その反対の意見はよく聞くし、従来からあるものだ。島田君もそれに属する。しかし今風ではないがね」
「やはり三宅君の方が新鮮なのですね」
「もったいぶったところがない。シンプルだ」
「凄い評価ですねえ」
「ただ、浅い。裏付けに乏しい。しかし、その裏付けを示すと島田君のように暗くなる。深淵まで降りるのでね。そこは出さない方がいいんだけどね」
「他に違いはありますか」
「島田君はもったいぶった語り方だが、三宅君はフラットで分かりやすい。だから今風なんだ」
「なるほど」
「そして大層な言い方をしない。まあ、それは中身の話ではなく語り口の問題だがね。しかし、中身もそれに近いよ。深いはずの溝をサッと飛び越える感じだね」
「じゃ、決まりですね。三宅君に」
「島田君の話を聞いていると最後は重いものが残るが、三宅君だと軽くなる。これだろうねえ」
「では三宅君を採用するように計らいます」
「そうしてくれ」
「はい」
 
   了



 


2024年1月6日

 

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