小説 川崎サイト

 

心地よさ

 

 テキパキと、いい流れで、スッとスムーズに行っているときは気持ちがいい。その最中が。
 これはギクシャクすることが多いとき、それに比べての話かもしれないが、その最中はやっていることではなく、そのリズムのようなものが快い。実はギクシャクも気持ちの良いときもあるのだが。
 何をやっているかではなく。調子がいいというのは、そういうことかもしれないが、コンディションがいいわけではなく、奏でている響きのようなものが心地よいのだ。
 だから何でもいいのだ。その調子、その調べが来ていると。
 そのため、面倒くさいことをしていても、それがあると助かる。嫌なことでもそうだ。
 事柄が問題なのではなく、テキパキとか、滑らかで、とかスムーズに行っている流れの最中が良いものなら、何でもかまわないような感じ。
 感じを感じとしてだけ抜き出して食べているようなもの。
 足が痛くて歩きにくいときスムーズさはなくギクシャクしている。一寸無理をすると痛くなる。しかし、その中でもましなときがある。一瞬かもしれないが、調子がいい。全体的には良くなく、調子がいいとは言えないのだが。
 忙しいときは、その流れがスムーズで、それこそテキパキと処理している最中は気持ちがいい。いやいやながらダラーとやっいると重いが、さっさとできているときは軽い。
 これは逆ではないかと思われるのだが、状況とは関係なく、そういう体感は所変わらずあるものだ。
 ただ、その気持ちよさのようなものを意識すると、すっと消えてなくなったりする。
 上原はそういう話を先輩の熟練者から聞いた。秘伝だと言っているし、奥義だと大げさに言っているが、誰でも体験した覚えのあることなので、大した奥義ではないが、それは技ではないらしい。
 それを意識した瞬間効かなくなるので、気付かないように振る舞うことが奥義らしい。だから奥が深い。
 気付かないふりをすればいいのだと教えてもらったので、心がけることにした。
 だから少しは気付いているのだ。そしてそっとその状態を覗いているだけだといい調子がしばらくは続くが、長くはないらしい。
 だが、気持ちの良さを感じるだけの十分な間はあると。
 上原はさらに教えてもらおうとしたが、これは個人差があるので、話しても当てはまらないので、あとは自分で整えるしかないと。
 そして、この仕事をやっていると、そんな瞬間があるので、奥義など身につけなくてもいいというのが、また奥義らしい。元に戻っているようなものだが、滑らかさとかは動きの中での話なので、止めて観察するとややこしくなるとか。
 上原はバイトで適当にやっている仕事で、誰にでもできる単純なものだが、その熟練者になると、それなりの気持ちよさがじんわりとにじみ出るので、これはいいものだと思うらしい。
 達人、名人と言われる人の作ったものではなく、誰でも作れるものでも、そういうことがあるのだなと上原は思った。思っただけだが、一寸気持ちよさもそのとき感じた。
 
   了


 


2024年1月18日

 

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