小説 川崎サイト

 

丸い盛り土

 

 たどり着けない祠がある。以前は丸見えで珍しいものでもなく、得体も知れていた。得体が知れないと、悪いものかもしれないと思うが、その得体、どちらに転ぶのかは人により違う。良いものだと思う人とそうではない人と。
 それに祠なので何かを祭っているのだが、良いものであっても、馴染みがなければ、避けるかもしれない。
 その祠、小高いところにあるが、数メールの高さしかない。まん丸い岡のようなもので大きなお椀を伏せた程度で、面積的にも広くはない。裾野はない。
 以前は畑がその周囲にあり、これは農家の庭のようなもので、売り物ではなかった。
 その農家、かなり昔から住んでいるが、越してきた人。他村からの移住のようなもの。その盛り土のある農家の跡を継いでいる。
 ここはずっと空き家だったので。そして村人とも馴染み、何世代か後は普通の村人になっていた。盛り土の上に祠のある家として、別に珍しくはなく、他の村人たちも見慣れた風景。
 その農家の庭先に村道が通っているが、枝道のようなもの。そこから簡単に祠へ行ける。私有地だがその境界線は曖昧。農家の敷地内だが垣根がないので、あやふやなのだ。
 そして最近になると、宅地になった。
 それ以前から城下に近いためか、商家などが増え、さらにそんな町家もわずかに残る程度で、ただの住宅地になっている。
 そのため建物が多くなり、昔の農家の土地も分割されて、所謂分譲住宅がごちゃごちゃと取り囲んでいる。農家と農家を繋いでいた余地のような隙間も閉ざされた。
 祠のある農家も同じように住宅地に取り囲まれ、昔の村道からスッとあの岡に入り込めなくなった。
 ただその農家、建て替えただけで、敷地はそのまま残っており、祠もまだあるし、その岡もまだある。
 しかしこの家の庭なので、入り込めるものではない。それに垣根がなかった時代とは違い、今は敷地をきっちりと塀で囲んでいる。だから勝手に入り込めないし、そんなことをする人もいない。周囲の家からの目もあるし。
 さて、その丸い岡。盛り土で、これは円憤。祠の中はお稲荷さんん。何でもよかったのだろう。お稲荷さんなら無難というわけではないが。
 古墳と祠は関係がない。ただの盛り土、岡のようなものではありませんよという程度の祠。
 古墳らしいとは分かっているが、調査は入っていない。灌漑用の水路を掘ったときの土の捨て場だったと言われているが、その農家が引っ越してくる前の大昔の話。
 だから古墳だと断定できないし、小さな円墳だし、調べにくい場所にあるので、無視されていたのだろう。それにその周辺に古墳はない。古墳は古墳群のように固まってあることが多い。
 しかし自然にできた岡ではなく、こんなにまん丸な形は人が盛ったとしか思えない。
 その農家や敷地は今もあり、そこの人がその気になれば掘り返すことはできるが、それを止めているのが例の祠。要するに聖域扱いの場なので、家の人もそのままにしているようだ。
 
   了

 


2024年1月22日

 

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