小説 川崎サイト

 

使えない技

 

 凄いものは突然やってくることがある。
 それは突然なのでそうなのかもしれない。凄さにも良い凄さと悪い凄さがある。災難は忘れた頃にやってくると言うが、これはいつか来るかもしれないが、今ではないだろうというタイプ。全く予想していないわけではない。
 そのため、全く予想していなかったものとの遭遇は珍しい。初めてのことで、どの程度の凄さなのかは分からなくても、おおよそ見当は付く。以前あった似たようなものとして。
 田村が凄いと思ったのは、その凄さは知っていたことなので、タイミング的な凄さだろう。今、これが来たかと。
 このタイミングは予測していなかった。最初、それに遭遇したとき、何かよく分からなかった。こんなものがあったのかと記憶をたどった。すると、すぐに思い出した。見覚えがあるので。
 しかし、それは今ではなく、もう少し間をおいてから接したいと思っていた。だが、何かの都合で、急に来た。そのことで凄さを感じた。
 そのものの凄さは知っているので、タイミングなのだ。そして、その凄いものは最初よく分からなかったことも効いている。身構えていなかった。
 どうせありふれたもの、よくあるものだと思っていたのも効いている。さらにそのものの正体が分かったとき、これは凄いものだというのを知っていたので、さらに動揺した。凄いものなのでその気で接する必要がある。田村はとっさに構え直した。剣豪の強い刃を受けるように。
 そして一度接したときよりも、凄いことになっていた。これも効果としては大きい。凄いものだとは知っていたが、それは並みの凄さ。しかし、今回再会したのはそれを越えていた。だから超凄いと言うことになる。凄いものは珍しい。さらにそれよりも凄いものとなるとめったにない。
 田村はその例を知っているが、極めて少ない。それほど珍しいのだ。
 しかし、それよりもさらに凄いものはあるにはあるが、タイミングの問題だろう。これは、やはりいきなり来たときの方が効果は大きい。そのものがそれほど凄いものでなくても、絶妙のタイミングで来れば、そのことが凄いのだ。
 こういう演出のようなものは作れない。ほとんどが偶然。希にとか、時々そういうことが起こるのだが、この時期にこれが来るのかという不思議さもある。
 もう少し先だろうと思っていた未来が、目の前にサッと現れたようなもの。誰もそれを仕込んでいない。田村も仕込んでいない。
 その凄いものが突然現れたときの田村のその手前での状態が参考になる。その手前の田村の心境だ。気持ちだ。どんな気持ちでいたのか。その凄いものが来る手前の心情のようなもの。
 田村はそれを思い出すと、一寸退屈していた。もう少し何とかならないものかと思っていた。そういう気持ちが凄いものを呼び込んだわけではない。そしてそんな凄いものなど期待していないし、退屈なままでもいいと思っていた。
 しかし、何処かで目が覚めるような凄いものを期待していたのかもしれない。しっかりとは望んでいなかったが。
 この凄いもの。時期が悪いと、それほど凄いとは思えなかったりするもの。
 ジャストタイミングで決まる。それだろうと田村は学んだ。しかし学んでもそんなものは使えない技だが。
 
   了

 


2024年1月28日

 

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