小説 川崎サイト

 

隠されていた古文書

 

「古文書が出てきたのですが」
「いくらでもある」
「別のところから出てきました」
「何処じゃ」
「物入れの奥の羽目板の中からです。これは隠して置いたものに違いありません。手の込んだところにありますので」
「それは知らなかったが、古文書ならたくさんある。あまり役に立たん。それに昔のことなど、もういいではないか」
「では、この古文書もそうですか」
「読んだのか」
「いえ、先にお伝えしたからと思いまして。それに勝手に読んではいけませんし」
「見せてみよ」
「はい」
「ボロボロだな。風通しが悪かったのじゃ」
「何と書かれてありますか」
「まだ、読んでいない」
「はい」
 主はサッと目を通した。流し読み。何が書かれているのかをまず知りたいので。
「いかがでした」
「先代が書いたものじゃな。四代前の当主じゃ。若くして隠居したらしい。そういう人がいたことは知っておるが」
「何と書かれてありました」
「恨み節だな。これは」
「歌人だったのですか。それは風雅な」
「違う。早く当主から降りた。いや降ろされたらしい。その恨みがここに記されておる」
「その先代、その後どうなりました」
「長生きした方だな」
「はい」
「当家には古文書が多く残っておる。ほとんどが帳簿のようなものじゃ。日誌とかもあるがな」
「でも、この書き置きは違うでしょ」
「恨みを書き連ねておるのう」
「どういたしましょう」
「そんな先代がいて、そんな思いをした程度。今とは関係せん」
「でも、わざわざ隠したのですから、重大なことが書かれているはずです」
「この箇所がそうだろう」
 主は、そこを読み上げる。
「策略だったのですね」
「しかし当家は続いておるし、養子などもらってはおらん。また当家は安泰。ずっと安泰できておる」
「しかし早い目に隠居させられたのでしょ」
「それだけの理由があったのじゃろう」
「はあ」
「そんな昔のことなどほじくり返しても詮無いこと」
「何かお祓いでも」
「隠居で気楽に暮らし、長生きしたらしいので、祟りなどせんだろ。仏壇に位牌もあるしな」
「でも、あの隠し場所、妙です」
「見せるために隠したんだろ」
「え」
「書いたものを見せたかったのじゃ。誰かが探し当ててな」
「それが私ですか」
「そんな恨みの書があることなど、誰も知らなかったはず。だから探すも何もない」
「見つける時期が遅すぎたのですね」
「こう言うのを読んでも仕方がない。わしの祖父などと関係しているかもしれんが、知らぬでもいいこと」
「はい」
「元の場所へ戻してきなさい」
「はい、読み終えましたら」
「あ、読むのか」
「当家の昔のことが分かりますから」
「勝手にせい」
「はい」
 
   了



 


2024年2月10日

 

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