小説 川崎サイト

 

叔父の物言い

 

 叔父の源左衛門は厳格な人で、さらに大層な物言いをする。話が凄くなり、規模も大きくなる。そういう声をしているのか、荘厳に聞こえてくる。
 真二郎はこの叔父が苦手だが、源左衛門には子はなく、真二郎を我が子のようにかわいがっている。そのため、真二郎は叔父の源左衛門に育てられたわけではないが、実父は細かいことを言わない人なのではなく、叔父が引き受けているので、よけない口を挟まなくなっていた。
 真二郎それで成長した時、叔父の言い方が気に入らなくなってきた。それは他の大人たちや友垣を見ているうちに気付いたこと。
 それは叔父が悪いのではなく、叔父の言っていることが間違いではないのだが、言い方が気に食わないのだ。しゃべり方、語り方だ。
 平たく言えば簡単なことをさも凄いことのように難しい言葉を連ねてもったい深く語るのだ。
 友垣も似たようなことを言っているのだが、一言で済むようなこと。
 ではなぜ叔父は大層に言うのだろうかと考えてみた。それなりの理由があるはず。大人でも聞き取れないような言葉の羅列。子供の頃の真二郎はよく分からなかったが、何となく、こういうことを言っているのだと想像した。それは当たっていた。
 もったいぶった叔父の話し方。これは何処からきているのだろう。当然そんなことを叔父に聞くのは失礼だし、父親にも聞けない。
 しかし、母親よりも親しい乳母が教えてくれた。既に乳離れしているので、もう屋敷内にはいないが、その乳母の村へ寄った時、聞いてみたのだ。
 あの人は学がある。しかし、上手く行かなかったらしい。殿様の子弟の教育係のようなものがあり、その候補に挙がっていたのだが、落ちた。
 だから口調が難しくなるのは、その時用だった。
 そのお役が消えたので、せっかくだからと言うことで、甥の真二郎を構うようになったらしい。
 真二郎はそれを聞き、簡単なことを難しく言う叔父を理解したような気がした。かわいそうな人だったのだと。
 その叔父、かなり年を取ってから私塾を開いた。藩では無役のままなので、暇で仕方なかったのだろう。
 分かりやすく、平たく言ってしまうと値打ちがない。叔父はそこで思う存分ホラ貝でも吹くように、発散していたようだ。だから叔父は機嫌はいい。
 もういい年になり子供もいる真二郎にはさすがに、もう大層な物言いはしなくなっていた。吹く場ができたためだろう。
 
   了


2024年2月14日

 

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