小説 川崎サイト

 

楽日

 

 今日は何もない日、と田中は思った。その日がないのではない。特にやる用事がない日。
 その日だけはやらないといけない用事。それがない。日々の用事はある。だから何もない日ではない。日々の用事は毎日なので慣れている。特に何も感じない。
 粛々とやっているだけで、昨日と同じことを今日も繰り返すだけ。だから平和なものだ。平穏と言うべきか。
 ただ、同じことの繰り返しでも上手くできる日と、できない日もあり、決して同じことをやっていない。同じ行為だが、感じ方が違う。昨日とそっくり同じというのは意外とない。わずかな違いなら同じにしてしまうのだろう。それに全体的には同じなので。
 ただ、できないこともある。これはあきらかにいつもとは違っている。やり直せばできることならいいのだが、できないまま終わると、一寸予定が狂う。ただ、翌日やればできたのなら、問題はない。いずれもよくあることがよく起こる程度。
 それとは別に、今日、やらないといけないこととか、今日やっていた方がいいことがある。これは毎日のことではなく、月に一度程度。毎週あったり、始終あったり、毎日あったり、さらにその日のうちにも複数あったりすると、もうそれがいつもの中に含まれてしまうような感じ。
 だから、たまにやってくる、やらないといけない用事は間隔を置いた方が目だつ。それが日々やっている用事よりも簡単で時間も掛からないことであっても、違うことをするので、一寸気になる。上手くできることが分かりきっていることでも。
 そして田中は今日は何もない日。こういう日の方が多いのだが、前日にたまにやる用事を済ませたところ。それが終わってホッとしたわけではないが、何もない日というのは和める。
 やはり何かある日はプレッシャーのようなものがかかるのかもしれない。簡単なことでも難しいことでも。
 しかし、いつもの用事とは違う用事は刺激がある。蓋を開けてみなければ分からない用事もある。これは心配だし楽しみでもある。くじを引くようなものだ。
 何もない日、田中はその日は別のことをするわけではなく、何もない日を楽しむ。
 しかし楽しめるようなものがあるわけではない。普段通りのことをやっているだけで、それは楽しいというわけではない。また楽しめるものでもない。
 だから、何もないと言うことを楽しんでいるのだ。これは今日は何もないので楽だという程度だが。
 
   了


2024年2月17日

 

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