小説 川崎サイト

 

田村の雨舞

 

 田村は雨で足止めを食らった。食べたわけではないが、この足止め、食べてみる気になったのだ。
 その用事、別に急がないし、他に影響を与えるものではないので、やらなくてもいい用事。
 しかし田村は困る。それは日課だし、そこで果たした用事はそれなりに蓄積となり、先へ先へと続いている。難しい用ではないが、その気にならないとできない。だから日常の野暮用とは少し違う。
 しかし今日は雨で出かけにくい。いつもならそれぐらいの雨では行っている。台風や大雨でもない限り。
 または安静が必要なほど体調を崩してときとかも。
 今日の田村は悪い体調ではない。よいわけではないのは雨で気も身体も重い程度。だから普段なら行ける。
 ところがどうしたことかやめようかと思った。これは既に一度外出しているため。雨の中だ。
 田村の規則では二回続けて雨の中を行くのは避けている。これは守らないことが多いので、ただの推奨。田村が勝手に作ったルール。
 今、出かけようとしているのは、それに当てはまる。傘を差すので、ずぶ濡れにはならないが、雨に打たれることは確か。それなりに衣服は濡れ、靴も濡れる。打たれるほどの強さではないが。
 それで、田村は行くのをやめた。たまにはそういうことをしてもいいだろう。しないと言うことだが。
 時間的にも昼寝をしてもいい。これこそ何もしていないのと同じだが、身体も頭も休まる。雨の中、出掛けるよりも。
 そして布団の中に入った。昼寝をするのも久しぶり。雨で鬱陶しい日は寝ていた方がいい。それができる時間は田村にはあり、融通も利く。
 そして、うとっと仕掛けたときから夢が始まった。雨の中、出掛けている姿。いつもの見慣れた道や風景とは少し違うのは視界が悪いため。雨で軽い幕が掛かっているようなもの。
 出掛けなかったのだが、夢の中では出掛けている。夢の中の田村はそれに気付いていない。もし本当に出掛けていたとすれば、そんな風景だろう。
 現実と同じで田村の姿はない。田村の後方からの映像ではないため。
 身体の一部は見えるし、靴ぐらいは見えるが、夢の中の田村はもっと遠くを見ている。
 しかし漠然としており、何も見ていないようなもの。それに何かの像を捕らえているようには思えない。何処にもピントが合っていないのだ。
 だから何も見ていないのだが、前方を見ている。まさかカーテンのような雨を見ているわけではないだろう。一粒一粒の雨が見えるわけがない。
 背景と光線状態で線のようなものが走るのが分かる程度。それと水たまりができておれば、波紋が少しはあるだろう。その程度の波紋なので強い雨ではないはず。
 夢の中での田村には目的地がないようだ。確認しなくても分かっているのだろうか。そして雨でふわっとなった世界をひたすら進んでいる。
 夢はそこまでで、急に終わった。つまり昼寝から目が覚めた。
 雨で用事は果たせなかったが、雨の中、出掛けたような気になった。
 
   了


 


2024年2月24日

 

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