小説 川崎サイト

 

いつも通り

 

 竹田にはいつも行く店がある。何処にでもあるような店だが、馴染みのない店には行かない。それはいつもとは違うため。
 しかし、そこも毎日通うようになると、いつもの店になり、これまで行っていた店に取って代わる。そして行かなくなると、馴染みの店ではなくなるのか、よく知っているのだが、間隔を置くと感覚としては遠い存在になる。
 その日、いつもの店が休みなので、別の店へ行くことにした。滅多にないことだが、たまにある。いつもの店が閉まっていた場合の補欠選手のような店。しかし、何度かそういうことがあるので、いつもの店ではないが、それに準じる店。たまに来る客としてそれなりに成立している。これは竹田の勝手な思いにしか過ぎない。
 それで行くことにしたのだが、方角が悪い。占いでそう出たわけではない。そうではなく、数時間前に行ったところと同じ方角で、近いところにある。
 だから同じ道を通ることになる。別に支障はないのだが、違う方角、違う通りを行きたい。同じことを繰り返すことになるので芸がない。時間帯もそれほど変わらない。
 そこで今回は道を変えた。いつもは通らない通りを通る。いつも通りではなく。これなら別の道を行くようなもの。いつもの通り道でも一日一回ならいい。二回は飽きる。
 そして復路だけに利用している通りを逆走する。これは同じ道だが、向きが違う。すると風景も違う。違いすぎて曲がり角を間違えるほど。
 ここが見所で、少しの刺激。逆側から来ると、こんな感じになるのかと驚くほど。これはほとんどやったことがないため。
 だが何度かやるともう分かってしまい、記憶に残るので、新鮮さがない。一寸した驚きが。
 同じ道や同じ道筋を行くのかと思うとうんざりしていたのだが、そうではなかった。一寸捻ればよかった。
 それで気を良くしながら店の近くまで行くと、閉まっているのが分かった。数時間前、その近くを通った時は開いていたので今日は休みではないと思っていた。
 しかし、数時間後のその時間の手前で閉店したのだろう。置き看板が消えていた。つまり閉まるのが早い店だったのだ。そして、その時間、竹田は前を通ったことがないので、知らなかった。
 それで竹田は店での用事を諦めた。急ぎの用ではないし、入らなくてもいいのだ。しかし習慣になっているので、店屋に寄りたい。いつもの店が開いておれば問題は何もなく、いつも通りのことをいつも通りに執り行われるはず。
 しかし、あまり代わり映えはしないが。その意味で別の店に行くことは一寸した変化で、新鮮だった。
 それで戻り道、同じ道を通らないことだけを心がけ、できるだけ違う道、違う道へと入り込んだ。逆方向は無理だが、少し遠回りしても構わない。
 そのおかげで久しぶりに通る道に入り込み、迷いそうになるほど新鮮。いつもの通り道ではない通りを行く。そういうことができたのは開いているはずの店が閉まっていたおかげかもしれない。
 何かの偶然で横道に逸れる。普段ならそんな気は起こらない。いつもの通りをいつも通り行くので。
 
   了



 


2024年2月25日

 

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