小説 川崎サイト

 

何と言うことはない

 

 何と言うことはない。これは何だろうと改めて言うほどのことではないと高峯は思った。何と言うほどではないと。何でもないことで、簡単だと。考えるほどのことでもなく、難しく思わなくても行けること。安易だとさえも思わないほど簡単なこと。
 高峯は本当はそうだとは思っていないが、それを押し隠している。押し込めている。それが出ないように。
 世の中には難しいものでも実は簡単だったりその逆もある。本当は難しいのに、簡単だとされていることもある。
 だから本人が簡単だと思えば、簡単なことになるのではないか、それが高峯の作戦。しかしこれは、ばれている。高峯自身に。
 しかし、それで、この難局にぶつかるしかない。だから難局だとは思わないこと。しかし、どう見ても手強さが来る。この作戦、自分にはばれているため。
 だが、難しく複雑で何ともならない問題だが、その一つ一つは大したことはない。それに気付いた。全体を見ると大物だが部分だけを取り出してみるとこなせる程度の小物。その小物だけがぽつんとあるのなら何と言うこともない相手。
 しかし、小物相手でも、実際は大物の一部分を占めているだけ。そのため大物の影がチラチラして、これは隠しきれない。だから高峯もそれに気付いている。だから、ばれている。誤魔化しても無駄。駄目。
 これは最初から高峯には無理な相手ではないか。そう考える方が正しいような気がする。手が出せる相手ではない。また手など出ないだろう。手も足も出ないまま終わるというやつ。
 しかし高峯は攻略したい。もし可能なら大手柄だ。それで、相手を簡単なものとして捉え直したのだが、先ほど思ったように高橋自身にばれているので、やはり弱い対象ではなく、強い対象なのだ。
 発想を変えると上手く行くというのは当てにならない。どだい無理という対象がある。小賢しい策など通じない。
 やはり相手にしないことが得策と、高橋はそれに決めることにした。それでホッとした。
 何だ、簡単だったと、高橋は思った。何でもない簡単なことだったのだと。
 
   了


2024年2月26日

 

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