小説 川崎サイト

 

好き貧乏

 

 熱中している事柄からも、そのうち冷めてくるが、常に熱心にやっていることもある。
 飽きてやめるものもあれば、続いているのもある。長期政権だ。しかし、それだけをやっているわけではなく、熱中できるものは他にもあり、そちらは入れ替わり立ち替わり現れるので短期。
 それらの事柄の中でも大人しいものはあまり熱心ではなく、熱中し、我を忘れるわけではないので、それほど熱心にはやっていない。習慣になっていることや、日々の細かいことだろう。
 やらないといけないのでやっていたり、やりたいからやっていたり、また癖になっているので、ついついやっていたりとかも。
 やはりその中でも長期政権のずっとやっているものは貴重だ。そういうものがあるだけでも大したもので、そんな事柄が複数あれば、もうありすぎな感じ。
 それとは別に、時たま熱中する事柄もあるので、それだけでも十分だが、それは続かないことが多い。
 面白いのはもう意味など忘れるほど癖のようにやっている事柄だ。もう中身はないようなもの。しかしやっている。
 別に熱心でもなく、いやいやながらでも仕方なしでもなく、自然にやっている。熱中ではないが、そう思うほどの意識もない。ただただ動いていたり、思ったり、考えたりしている事柄。
 これは常駐しているようなものだが、それさえも気にならないほど自然。
 だから熱中していると思える事柄とは別に、そういった熱中を感じない事柄もある。
「また分かりにくいところを突いていますねえ竹田君」
「読まれましたか、僕の日報」
「日報でそんなことは書くのは落書きに等しい。ただの感想はいらないのです。あったことを書きなさい。今日は何処まで進んだとかね」
「その進展が、昨日の日報です」
「熱中の話かね。何だね、それは」
「熱中していることさえ感じない熱中です」
「だから、熱中しているから、そこに集中し、そんなことなど思えないほど熱心にやっているだけのことでしょ」
「でも熱中の種類が違うように思います。やっていても熱心さはなく、淡々とやるタイプとか」
「じゃ、熱中じゃないのですよ。いやいや、そんな話をしている場合じゃない。それが次の研究テーマなら別ですが、そうじゃないでしょ」
「なかなか今の研究に熱中できなくて、ついつい書いてしまいました」
「でも最初の頃は熱心にやっていたじゃないですか」
「だから短期タイプです」
「それで長期政権タイプが欲しいと言うことですかな」
「はい、そうなんです」
「しかし、それは研究とかでは無理ですよ」
「じゃ、どの方面ならいけますか」
「個人的なことでしょ。プライベートなことならいけますよ」
「あまりありません」
「あるでしょ」
「ありますが、短期政権ですし、すぐにネタが変わります」
「ネタかね」
「はい」
「じゃ、熱中の研究をすれば、熱中できるかもしれませんねえ。しかし、そんな研究、あまり奨められません。それなりにデーターが必要ですし、実験も必要でしょ。竹田君が扱える規模から出てしまいます」
「そうですねえ。それに既にやっているチームもあるでしょうねえ」
「この研究所でやるのは基礎的なことです」
「勉強のようなものですね」
「だからテーマは自由です。自由課題です」
「じゃ、熱中の研究もいけるんじゃないですか」
「そうですねえ。基本的なところまでなら」
「熱中したいから熱中の研究をするというのも一寸おかしいですねえ」
「気がつきましたか」
「はい」
「まあ、好きなら熱心に勝手にやるという程度ですよ」
「よほど好きなんでしょうねえ」
「そうですねえ。だから好きなテーマを選べば一番いいわけです」
「僕は何が好きかなあ」
「君は何でも好きそうですよ」
「好き貧乏ですね」
「そうだね。一つに絞れないのならね」
「いっそのこと嫌いなことをやろうかなあ」
「好きにしなさい」
 
   了


2024年2月28日

 

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