小説 川崎サイト

 

傀儡師

 

 木偶人形を操り、立体紙芝居。人形劇のようなものを見せ、子供に菓子を売るという傀儡師がいた。
 その傀儡師が二人。街道でばったり出会う。
「伊賀か」
「違う」
「甲賀か」
 と聞くのは、傀儡師に扮装した忍者が多かったため。何かの情報を得るため、うろうろしている。特に城下にいる傀儡師はあやしい。しかも長くそこにいるのは。だが、街道では、どちらかは分からない。
「では、何処だ」
「飛騨」
「飛騨者か」
「そっちは」
「甲斐だ」
「それは珍しい」
「少数派なのでな。飛騨も甲斐も」
「誰からじゃ」
「え」
「誰の使いじゃ」
「使い。そんな使いはもらっておらん」
「依頼主じゃ。ああ、それは言えぬな」
「ただの生業」
「まあ、いい」
「しかし、一寸頭を出してる、その童の木偶。見事だな」
「これは看板だ。物は良い。木地師が違う」
「いいのを持っておる」
「大事な商売道具」
「うらやましいのう。色目に艶がある」
「塗りも巧みなんだ」
「わしも欲しい」
「甲斐にもいるだろ。名人じゃなくても」
「古くなった。新しいのが欲しい。以前より飛騨ものがいいと聞いていた」
「売っておらん」
「飛騨まで行ってもか」
「来たなら売るだろう。作り置きもあるはず」
「いいことを聞いた。近いうちに飛騨へ行く」
「気をつけろ。飛騨は」
「山深いからか、しかし、意外と近江からも近いぞ」
「じゃ、傀儡師のなりでは行くな」
「怪しまれるか」
「そうじゃないが、飛騨にもややこしい傀儡師がいる」
「伊賀者のようにか」
「それとはまた違う」
「わしはただの傀儡師。甲斐が国元だが、出稼ぎなんだ」
「こっちもそうだ」
「よかった」
「しかし、その手の者のなら、正直には言わんだろう」
「尤もだ」
「たとえ筋者でも敵同士ではない」
「そうじゃな。わしらは敵対しておらん」
「やはり、そうか」
「違う違う。ただの百姓だ。その出稼ぎだ」
「その出稼ぎ、誰かに頼まれたんだな」
「そっちはどうじゃ」
「誰にも頼まれておらんわい。生業。食うためじゃ」
「正体は出せんなあ」
「それより、その木偶、もっと見せてくれ、頭だけじゃなく」
「糸がもつれるので、それはできん。それに商売道具なのでな」
「一寸触れるだけでいい」
「こらっ」
 触れた瞬間、頭を握り、木偶を箱から抜き出した。糸が引っかかるが、道中差しで切り、サッと懐に入れ、走り去った。
 強奪された傀儡師、立ったまま。
 傀儡師の人形に密書。という話を聞いていた。だからその木偶人形の中に密書が入っていると思っていたのだろう。上手く引っかかった。偽の密書を仕込んでいたのだ。
 傀儡人形を操る傀儡師、その傀儡師も操られている。
 
   了


2024年2月29日

 

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