小説 川崎サイト

 

離世間症

川崎ゆきお



「我が道を行く人のようですが、あなたは世間知らずのようですねえ」
「専門馬鹿でしょうか」
「そうだと思います」
「世間って何でしょうか?」
「世の中の様子ですよ」
「それはどうして会得できるのでしょうか?」
「会得?」
「はい」
「特に方法はないですよ。知らずと身につくものです」
「それは大事なことなのでしょうか?」
「平凡で、当たり前のことですよ」
「僕は世間を知らないのでしょうか」
「庶民感情。それはありますか?」
「はい、それなりに俗物です」
「あなたの気持ちと世の中の気持ちが合っている、つまり共感できますか?」
「できない面があります」
「難しい感覚ではありません。普通の感覚です。ここが少し面倒なのですがね」
「専門馬鹿の対極に普通があるのですか」
「専門家が馬鹿なのではありません。その中に普通の感覚から外れた人がいるのですよ」
「普通は人によって違いませんか?」
「多少は違いますが、程度の差でしょう」
「確かに僕が思い描いている世界は、特殊な世界かもしれませんが、決して世間と掛け離れた世界ではありません」
「その世界から世の中を見ておりませんか?」
「そこが僕に中核ですから。それを中心に物事を見ているかもしれません。それは誰も同じようなものでしょ」
「それはまあ、そうなんですが。あなたの場合、視野が狭いと思うのです」
「それで専門馬鹿だと」
「物狂いでしょうな」
「僕は自分の好きなもの、やりたいことを目一杯やれることで、毎日充実しています」
「物狂いの人は充実するものですよ。だから、その道を歩まれているわけでしょ」
「はい」
「それは幸せなことで結構じゃないですか」
「そうでしょ」
「しかし、世間の人がすべてあなたのようにはなれないのですよ」
「それはのめり込み方が低いからです」
「世の中はそんなお仕事ばかりじゃないでしょ」
「見つけられないだけではないでしょうか」
「いろいろな人がいるのが世間です」
「それは分かっています」
「あなたの症状は、離世間症でしてね。身体に出るでしょ。じっとしていると、身体が浮いてしまうような」
「どうすればいいのですか?」
「そのうち、戻りますよ。冷める日が来ますから、安心なさい」
 
   了


2007年01月13日

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