小説 川崎サイト

 

冴えない日

 

 長田はその日も冴えない日だった。
 風景にも精彩がなくなるわけではないが、明るくはない。ただ、これは天気の具合だろう。
 その日は曇っている。最近曇り日が多い。だから晴れ晴れしい日ではない。天気だけではなく、気分が晴れ晴れとした感じではない。
 ただ、曇っている日や雨でも、気分が優れていると、詳細に見えたりするが、これを目が冴えているというか、頭も冴えているのだろう。そうではなく、ここ数日の長田は冴えない。
 しかし、これは悪くないと長田は思っている。風景は一応見えている。隅々まで細かく目に入るほどの冴え方ではないが、あまり細かい現実など、見ても仕方がない。
 ただの背景としての風景で、別に長田と絡んでくるようなものではないので。そんなところで集中力を使うのはもったいない。
 冴えない理由は特にない。ちょとした良いことや悪いこともあるが、その程度の変化ではベースまでは変わらない。
 何となく冴えない日、というのはよくあるだろう。
 そういう冴えない日も長くは続かず、一寸張り切った気持ちになる。これも長くは続かないのだが、冴えない日の方が落ち着いていていいように思われる。
 その日一日、この調子で過ごせれば平和なもの。テンションが低いので、余計な冒険はしないはず。そういう気分にはなれないし。
 冴えない日でも、密かに何かの気持ちが動いているようで、これは準備中なのかもしれない。そんな準備なら気付くはずだし、どういうことを目論んでいるのかも分かるだろう。だから、準備中と言うよりも待機中。様子見をしているだけ。
 冴えないので、何か冴えることを想像しているのだろう。だからこの時期の溜めがあとで効く。溜まりすぎるので、動き出す。
 いずれにしてもそういうリズム、サイクルがあるようで、今は冴えない、の番なのだ。
 単純に言えば、冴えないから冴えるものが生まれるようなもの。だから冴えないときは卵を温める時期。そのうち孵化し、飛び立つ。
 しかし長田はたまに思うのだが、こういう冴えないままの日々でもいいのではないかと。何か楽なような気がする。頭も身体も全開ではなく、半分ぐらいで済むので。
 だから冴えない日々も悪くはない。といってよくはない。冴えないのだから、よくなくて当たり前だが、結構安定している。
 
   了


2024年3月10日

 

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