小説 川崎サイト

 

ウサギとカメ

 

 便利で使い勝手がよく、そして簡単。非常に快適だ。しかしたまにミスをする。
 一方、やや不便で勝手も悪いし面倒さがあるので今ひとつだがミスがない。
 田岡は上田を見ていると、それを感じる。ウサギとカメで言えば上田はカメ。そこまで差が出るほど遅くはないし、あることに関してはウサギよりも素早い場合もある。
 田岡は上田を選ぼうとした。推薦だ。しかし華がない。これと言った特徴だ。しかも見栄えのする。
 聞いてああなるほどそれはいいと思ってもらえるものが地味。しかし、その自力はウサギよりもカメの方がある。よく見れば鈍いカメの方が優れているのだ。しかし、そこまでは評価されない。
 カメの上田とは対照的な関口がいる。これはウサギだ。そちらを推薦するのは簡単。通るだろう。だから本命はウサギの関口だが、田岡は上田の潜在力を気に入っている。
 だから、そちらを推薦したい。だが通りにくいのならこれは無理。なぜ上田なのかの説明が難しい。本当は全体的な力が上のため。
 だが、求められているのは小回りのきく敏捷さと、機転が利くとかだ。だがそれではミスを犯すことが多いことを田岡は知っている。だからカメの上田がいいのだ。
 これを押すのはかなり良心的なのだが、それが伝わるかどうかは分からない。それを選ぶ人が慎重な人なら問題はないが、そうではなく、すぐにでも実績を上げ、しかも見るからに仕事の早いタイプを求めている。だからそれに反するのは推薦できない。
 田岡が上田を推薦すれば、人選を間違った、人を間違ったのではないか取られやすい。だから、やはりカメの上田ではなくウサギの関口になる。
 しかし、推薦したくない。気に入らないのだ。関口のやり口が。だから田岡もカメの上田タイプなのかもしれない。
 結局求められているのはウサギタイプのようなので、田岡は渋々関口を推薦した。意に反して。
 求められているのは関口の方らしいので、選び方としては正しい。ただミスが多い。これで、逆に遅れたりするし、二重手間。結果的には遅い目のカメの上田の方が早かったとなる。
 だから、やはり上田を推薦すべきなのだが、上が求めているものとは違う。
 軽快な方がいいことを田岡も分かっているが、軽快が軽率に変わりやすいことを心配していた。
 
   了




2024年4月3日

 

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