小説 川崎サイト

 

ローテンション

 

 富田は今日も何とか終えたいと思っているが、まだ昼過ぎ。もう帰ることを考えているのだが、どうも調子がよくなく、無事勤め終えられるかどうかが心配。
 早退するほどではないものの、なぜが調子が悪い。これは気の問題でなくプレッシャーでもなく、ただの体調だろう。
 そういう日がたまにある。妙に元気がないような日。昨夜食べた食事が悪かったのが原因になっている場合もあるが、妙なものは食べていない。
 しかし腹具合も含めて、一寸妙。これは風邪でも入ったのだろう。そういえば気温は低くないのに、肌寒い。悪寒とまではいかないが。
 それで仕事ができなくなるわけではないので、低空飛行を保ったまま、静かに仕事に向かっていた。
 ハイテンションに入ることはまずないし、無理なのだが、事柄によってはテンションが上がることもある。この時、結構危険。
 それで抑え気味に仕事をやっていたのだが、これが意外と気持ちがいい。少しテンポは遅くなるが、滑らか。
 なぜか丁寧さが加わり、気持ちがいい。所作がいいのだろう。普段はもっとバタバタやっている。
 こういうやり方もあったのかと、富田は発見したような気になるが、たまにその状態になることを知っていたので、珍しいことではない。
 型どおり綺麗にやる。その仕草、所作、振る舞い方がいいのだろうか。まるで演者のように。さすがに能のようにはいかない。それでは逆に遅くなりすぎるし、わざとらしさが丸見え。
 そうではなく、自然な所作がいい。これは普通の動き方で良いのだが、急いでいたり、荒っぽかったり、逆に遅すぎたり、だらだらやっていたりするので、普通というのは意外とできなかったりする。まあ、普通の状態なら普通の動きになるだろうが。そんなときは普通だとは感じない。
 調子は悪いのだが、悪いものではない。なぜか肩の力が抜け、すんなりとやっているような感じ。富田はそれを会得したわけではない。するほどのことでもない。
 そして定刻まで何とか持ち、仕事を終えた。
 何か大事でも終えたような気になったが、ほっとしたことは確か。
 そういった低いテンションで、歩いていると、街並みも落ち着いていた。富田が落ち着くと、風景も落ち着くのだろうか。その感覚、少しだけ新鮮だった。
 
   了


2024年4月8日

 

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