小説 川崎サイト

 

爬虫類型

 

「沼田さんなんですがねえ。何とかなりませんか」
「僕とは同期だ。彼の方が成績がいい。だから主任だ」
「主任補佐でしょ」
「実際には沼田君が仕切っているようなもの。それに主任はもう年ですからね。沼田君に任せているのでしょ。それで逆によくなった。うちの班はそれで伸びた。その沼田君を何とかしてくれとは何だね」
「どうも相性が悪いのです。嫌なんです。顔を見ただけで、声など聞くと、もう駄目です」
「それは悪口かね。それはやめた方がいい。ここだけにしてくれ」
「相談する相手が先輩しかいないので、どうなんでしょうねえと思ったのです」
「何がどうなんだ」
「沼田さんのあの態度。あの雰囲気。何か地獄の底から泥をかぶって出てきたような。そしてあのヘビのような目。怖いです。ぞっとします」
「君がそう思っているから、そう見えるんだ。君の問題だよ。沼田君の問題じゃない。いや、沼田さんかな、上司だし」
「僕の見え方で、そう映ってしまうので、僕の問題なのですか」
「沼田さんは仕事ができる。問題は何もない」
「僕だけがそう思っているのですか」
「いや、実は私もそう思っている」
「あ、ほっとしました。そうなんだ。やっぱり。僕だけじゃなかったんだ。僕の想像や、僕の取り越し苦労や、錯覚じゃなかったんだ」
「大きな声で言うんじゃない」
「はい。でも他にもそう思っている人が多いんでしょ。それなら紛れもない事実。フィルター越しに見た、色眼鏡じゃなく、他の人もそう見えるのなら」
「あの主任もそう言っていたねえ。なんだか怖くなってきて、補佐の沼田君に任せてしまったと」
「ヘビが入っているんだ」
「それは言いすぎだ。それにヘビに失礼ではないか。いや、そんなこともないか。普段からヘビに敬意を表していないしね」
「先輩とは同期でしたねえ。その頃はどうでした。まだ爬虫類化していなかったと思いますが」
「爬虫類や両生類に失礼だよ。いや、失礼じゃない。そうだね。普通だったが、なぜか仲良くなれなかったなあ。まあ、これは私の問題だがね」
「でも沼田さんと仲のいい人なんて知りませんよ。いつも一人です。孤立しています。やはりヘビだからですよ。薄気味悪いんですよ」
「言い過ぎだよ。それに沼田さんが仕切るようになって我が班の成績は上がっている」
「でも、やめた人も多いですよ。きっとあれが原因なのです」
「あれって何だね」
「だからぞっとするんですよ。沼田さんと接していると」
「沼田さんにはそんな悪意はない」
「でも悪意を感じます」
「人をそんな風に言うんじゃない」
「分かっています。でも僕の気持ちをどうしても誰かに話したくて」
「何人かいた。君と同じことを話していた」
「竹田さんや野口さんでしょ」
「他にもいた。全員やめた」
「じゃ、僕も、そろそろかも」
「私もね」
 
   了



2024年4月11日

 

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