小説 川崎サイト

 

無難

 

「無難なところをスーと行ってますなあ」
「すいません。つい安全運転で」
「それはいいのですが、これは車ではありません。安全運転が必ずしもいいとは限りません」
「そうなんですが、ついつい」
「安全地帯だからでしょ」
「たまには冒険もします。一寸ですが」
「一寸過ぎて分からない」
「その一寸でも冷や汗ものなんです。変なことをやり出したのではないかと思われますので」
「誰もそんなことは思っていませんよ。それに一寸では気付かない。今まで通りだと」
「それに一寸した冒険でも自分自身ではないような気持ちになります」
「では普通の冒険もできない。ましてや大胆な冒険などもってのほかって感じですなあ」
「僕にとっては普通の冒険でも大胆な冒険に匹敵します。ましてや大胆な冒険など僕がやっているとは思えない世界になります」
「冒険を楽しみたくないと」
「そんなことはありません。冒険は好きです」
「でも、それほどしない。どうしてなのですか」
「必要ですか」
「たまににはね。それで自分を揺すぶってみることになり、活性化に繋がります」
「いつも同じようなことを綿々とやっているのは駄目ですか」
「悪くはないが、君はそれでいいのかね」
「同じようなことをやっていますが、一寸違うのです。決して同じことを繰り返しているわけじゃありません」
「そう見えないがね。わずかな違いなので、気付かない」
「冒険せず無難なものの方が落ち着きます」
「難なしか」
「いえ、同じように持ち込むのが難しいこともあります。これは下手をすると冒険になりそうなので」
「じゃ、そのまま冒険に持ち込めばいいじゃないか」
「僕の領域ならいいのですが、そうでない場合、躊躇します。自分がやるべきことではないのではと」
「しかし、無難に持ち込むことに難儀するというのは面白いねえ。そのようには見えないが」
「難儀しても難儀していないように見せます。楽にやったような」
「しかし、表に出てこないのではねえ。内側のことまでは分からない。出てきたものしか見ていないからね。君が何処で難儀したのかは知りようがない」
「それは知らなくてもいいのです。分からなくても、ただの過程ですから」
「うむ」
「次からは、すんなりできます。やり方が分かったので、無難なものとなります」
「難を避けておるんだな」
「そうなんです」
 
   了



2024年4月13日

 

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