小説 川崎サイト

 

清武の清玄

 

「清武の清玄さんは達者かな」
「さあ、最近清武村には行ってませんので」
「清武で滝行をしておると聞いたのだが、その成果を見たいものじゃ」
「さあ、あまり変わらないのでは。この前までは渓谷の岩の上で座っていたとか」
「見たのか」
「里の者が言ってました。谷にニョキリと突き出た岩でして、あそこに這い上がるのは一苦労のはず。里の者でも登ったことがありません。そんな用はありませんからな」
「そこに清玄さんが登ったのか。凄いのう」
「登るよりも降りる方が大変らしく、それを嫌がって長い間、座っているとか」
「そんなところで、目を閉じて座ってられるのか、背になにかあたるものがあれば別じゃが、前後左右に振れそうで怖いではない」
「岩はぽつりと突き出ていますので、もたれかかったりでできるものはありません。座っているだけでも大変です。ふらふらするはず」
「わしなら両手両足で腹まで付けて蜘蛛のように這いつくばるがな」
「清玄さんはしっかり座っていたとか。ただし目は開けておられたと」
「そうじゃろう。そうじゃろう。目はいいだろう。開けていても」
「はい。その行を長くやっておられましたが、里に下りられたときは、別段変わったところはなかったとか」
「変化なしか」
「はい、座っていただけで」
「何か得るところがあったはず」
「座布団がいるとか」
「うーん。それで今度は滝行か」
「その後、清武へは行ってませんので、その後どうなったのかは聞いておりません」
「しかし、大変じゃな。仙人になるのも」
「働くよりもましとか」
「身体を壊さぬならいいが」
「清玄さんとどういうご関係で」
「同じ村の出じゃ」
「そうだったのですか」
「拙僧も旅から旅」
「童の頃の清玄さんはどんな感じでした」
「一人で遊ぶのが好きな子でな。わしとは仲良くしておったが」
「仙人様になるか、生き仏様になるかですね」
「両方なれんわ」
「そうですね」
「しかし、清玄が心配じゃ。これから清武へ寄ってみる」
「はい、お気を付けて」
 
   了



2024年6月7日

 

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