小説 川崎サイト

 

ある変化

川崎ゆきお



 様変わりでショックを受けることがある。街でも人間でもだ。
 風景よりも人間の人変わりのほうがショックの度合いは大きい。
 風景を見るように、人を見ているわけではないが、風景の一部になったような人もいる。
 その場合、その人間との接触が浅いほど風景寄りとなる。
 吉原は風景だと思っていた人が話しかけてきたので驚いた。知らない人ではないが、今までなかったことだ。
 話す用事がなかったのだろう。顔を合わせても無視し合う関係だった。互いに風景として見ていたのかもしれない。
 吉岡には変化はない。いつもと同じだ。それを壊したのは相手だ。相手が心変わりしたのだろうか。
「よく見かけますねえ」
「そうですねえ」
 吉岡は風景に返事した。
 この時点でもう風景ではなくなっているのだが、街が話しかけるようなこともあるだろう。
「どんな人なのか、興味がありましてねえ」
 風景はさらに聞いてきた。
「ただの通りすがりですよ。通行人です」
 吉岡は自分を風景の一部のように答えた」
「先週はお見かけしませんでしたね」
「風邪気味で」
「そりゃ、いけない」
「ありがとうございます」
「でもこうして出て来られるのですからお元気になられたのですね」
「いや、まだ完全じゃありません」
「ご自愛ください」
「ありがとうございます」
 吉岡は相手の用件を探った。
「では、ごきげんよう」
 相手は立ち去った。ただの挨拶だけだったようだ。
 風景の一部がアクティブになった感じだ。心境が変わるとかの大袈裟なことではないのかもしれない。
 逆に吉岡が声をかけるとすれば、機嫌のいい時だろう。しかし自分からは決して話しかけない。話しかけられれば話してもいいが、それも街の音だ。
 吉岡がゆるりと歩いていると、よく見かける人を見つけた。先程の人ではない。
 一度口を開くと緩むのか、声をかけたくなった。いつもの吉岡のパターンではない。心境が一次的に変わったのだ。
「よく見かけますねえ」
 相手は無表情で、生体反応はなかった。
 
   了


2007年02月3日

小説 川崎サイト