小説 川崎サイト

 

ある意見

川崎ゆきお



 ある事柄を違う視点で見ると、違った側面が見えるかもしれないが、その事柄に変化はない。
 別な側面を見ただけで、なんらかの側面があることは予想されている。
 しかし、違う側面を見たことで印象が異なってしまい、認識が変わるかもしれない。
 それでもその事柄が変わるわけではない。
 いずれも自分の視点で見ているわけで、自分の思惑からは離れられない。
 では、どう違えばいいのだろうか。
 自分の視点ではなく、他の人なら、こんな印象を受けるだろうと想像することだ。
 誰かになりすまして、あの人ならこう思うだろうと。
 しかし、その真似事で、違う解釈が生じることもあるが、真似ているのは自分である。その限界内での話で、やはり自分の視点内での観察になるかもしれない。
 ある時真似ても真似し続けられない。
「君の場合、受け売りが多いねえ。自分の意見はないのかね」
「はい」
「はいじゃないだろ。はいじゃ」
「はい」
「それじゃ、オリジナリティーがないんだ。独創的な創造はできんよ」
「すみません」
「簡単に謝る奴だなあ」
「オリジナリティーがないので」
「何とかならんか?」
「あの一件に関しましては、色々な意見を述べましたが」
「その色々はすべて引用じゃないか」
「参考までに並べてみました」
「それで、君の意見はどうなんだ。それが知りたいんだよ」
「それが意見です」
「人の意見はいいんだ。君の意見だ」
「私の意見が問題なのではなく、この一件が問題だと思いますが」
「分かりにくい言い方だなあ。わしは君の意見を聞きたいと言ってるだけなんだ。難しい問題じゃないだろ」
「私の意見が問われているのですか」
「だから、何度も聞いておるだろ」
「私のことなど大した問題ではないかと」
「じゃ、意見はないのだな」
「先程述べました参考意見が、私の意見です」
「まちまちじゃないか」
「色々ですね」
「だから、その参考意見の中で、君はどれがいいのかを言ってくれ。それが君の意見になる」
「それが選択できるのなら、参考意見を提示しません」
「じゃ、好ましく思えるのを一つだけ選んでくれ」
「それを選ぶのは部長のお仕事です」
「どれがよいのか分からんから君に相談しとるのじゃないか」
「ああ、そのレベルの話でしたか」
 
   了


2007年02月7日

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