小説 川崎サイト

 

声高の罠

川崎ゆきお



「世の中、声高に喋った相手が勝ちだね」
「そうでしょうか?」
「主張が通りやすいよ」
「声はよく通るでしょうが、主張は届いているのでしょうか」
「声が届けばいいんだよ」
「内容は?」
「内容よりも、その押し出しで威喝されるんだ」
「動物の世界ですねえ」
「叫び合いに勝てばいいんだよ」
「どうしてなんでしょうねえ」
「理由かい」
「そうです」
「動物的本能を刺激するからじゃないの」
「そういえば、声高な人、真っ赤な顔をして猿のように見えますねえ」
「そうだろ、チンパンジーだよ」
「歯を剥き出して威嚇するんですね」
「そういうのに弱いんだ」
「叫び合いで勝負がつくなんて、いつの時代の話でしょうか」
「今もそうだよ」
「それを打開する方法はありませんか」
「敵より大きく叫ぶことだな」
「それは疲れそうです。他にありませんか」
「ないねえ」
「そんなやり方の人間を何とかしたいのですが」
「相手にしないことさ。放置するんだ」
「でも、反応してしまいます」
「相手の動物ペースに乗らないことだ。それに乗ると声高が勝つ」
「放置できるでしょうか」
「無視すればいい」
「でも、そんな人間がのさばっているのは我慢できません。放置すればますます増長するんじゃないですか」
「君はそれが気にくわんのかい?」
「はい」
「そこに引っ掛かっているだけさ」
「トラップだよ」
「罠ですか?」
「その罠を回避することだな」
「そんなことじゃ、収まりません」
 
   了


2008年02月13日

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