小説 川崎サイト

 

門柱と雪だるま

川崎ゆきお



「さて、どこまで話しましたかな」
「まだ、何も聞いていません」
「昨日話したと思うが」
「それは挨拶代わりのお天気の話です」
「それでいいじゃないか。では、今日はその続きじゃ。で、昨日はどこまで話したかのう」
「本題にはまだ入っていませんでした」
「忘れたのかの」
「お天気の話ですか」
「そうじゃ」
「どこまでと言われましても」
「記憶にないか」
「あります」
「じゃ、どこまでじゃ」
「雪が降って寒い…でしたか」
「それは、最初じゃ。最後じゃない」
「雪の話が最後かと」
「どんな?」
「雨にならないで雪になって寒いとか…」
「その後じゃ」
「はあ」
「聞いておらなんだな」
「聞いておりましたが、本題に入る前の世間話なので」
「だから、適当に聞いておったのだな」
「その時はしっかり聞いておりました」
「だが、忘れたと」
「はい」
「では、続きが話しにくいではないか」
「いきなりで、結構です」
「メモをとっていたようじゃが?」
「私がですか」
「そのノートだ。今持ってるそれだよ」
「あ、これですか」
「そこに書いておらなんだのか」
「昨日は何も話してもらえませんでしたから、何も書いていません」
「話したじゃないか」
「えっ」
「話しても忘れるわ、メモもせんようでは、わしも話す気がうせる」
「でも、あれは話の前の世間話のようなもので、本題では…」
「あれが、序章じゃ」
「序章?」
「だから、今日はその続きじゃ」
「空模様と本題と、どう関係があるんですか」
「わしは世間話をやった覚えはない」
「そうだったのですか」
「覚えていないのなら、できないではないか。話が分からぬようになるぞ」
「かまいません。ぜひ続きを」
「作った雪だるまをどこに置くかだ。孫は門柱の上がよいというし、嫁は門の下がよいという」
「あのう」
「何だ」
「思い出しました」
「そうか」
 
   了


2008年02月17日

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