小説 川崎サイト

 

焼き物と庭

川崎ゆきお



「繋がりが減ってゆくねえ」
「私もですよ」
「まあ、面倒な繋がり減るのは歓迎だがね」
「会社を辞めるとそんなものですよ」
「仕事で繋がっていたんだな」
「ほとんどはそうですよ」
「仕事がなくなれば繋がりも減るか…」
「だから、そんなものですよ。いまだに続いていたら忙しくて仕方ないじゃありませんか」
「君は先生だったね」
「そうです」
「じゃ、僕より多くの人間と繋がっていたわけだ」
「今はさっぱりですよ」
「同窓会とかに呼ばれないかね」
「たまにありますよ」
「じゃ、まだ教え子たちと繋がっているじゃないか」
「年に何度もありませんよ」
「新たな繋がりが欲しいねえ」
「それは自然に発生するんじゃないですか。趣味の会とかへ行かれてみてはどうですか」
「趣味か…」
「何かありませんか」
「ないねえ。仕事が趣味だった」
「これから作ればいいじゃないですか」
「繋がりが欲しいから作るのはどうかねえ…」
「でも、奥さんと二人で気楽に過ごされるのがいいんじゃないですか」
「そうだね」
「下手に繋がりを持つより、いいと思いますよ」
「君は寂しくないか」
「人間の渦の中で仕事してきましたからね。もういいですよ。人間を扱うのは」
「じゃ、最近はどうしてるの?」
「石庭を作ってます。箱庭ですがね」
「それは、考えてもみなかったなあ」
「今日はこれから砂を取りに川へ行くんです」
「ほう」
「砂も砂利も小石も売っているんですがね。やはり、自分で自然の中から取り出すほうがいいんですよ。砂と砂利が混ざりあった感じがいいんです。砂だけじゃ不自然なんですよ」
「あ、そう」
「自然を切り取るんです。今まで自然の中にあったものをそのまま」
「僕も焼き物でもやろうかなあ」
「それいいですよ。セットで売ってますよ。レンジでチンと焼くんです」
「それは風情がないよ。やはり釜でないと」
「え、釜を買われるのですか?」
「焼くとすれば、そうしたいな」
「そりゃ本格的ですねえ。でも煙が出るとやばいでしょ」
「そうだね、最近煙りなんてみないねえ」
「私も本物の庭を作りたいですよ。でもマンションだから庭がないんですよ」
「何となく分かってきたよ」
「僕の趣味ですか」
「いや、人間と繋がらないような」
「ああ、そうですねえ。自然と繋がるような感じなんですよ」
「うむ、悪くないねえ」
 
   了




2008年03月01日

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