小説 川崎サイト

 

劇的興奮

川崎ゆきお



「最近劇的なことがないなあ」
「劇的?」
「ドラマチックな出来事だよ」
「ああ、それは、こちらに劇的な要素がなければ無理だね」
「劇的な要素って、なんだい」
「強い気持ちだね」
「そりゃ、あるさ」
「じゃ、そのうち劇的な出来事が起こるさ」
「君は最近ある?」
「ないなあ」
「強い気持ちの欠落かい」
「そうだな、求めていないのかもしれない。だから、そんなシーンになるのを避けているんだろうな」
「俺の場合、求めているのに来ないぜ。チャンスに恵まれないのかなあ」
「うろうろしてりゃ遭遇するさ」
「最近動いていないなあ」
「きっと沈静化しているんだよ。以前ほどアタックしていないだろ」
「ああ、毎晩遊んでいたのになあ」
「そのころは劇的出来事が多かっただろ」
「おっしゃる通りだ」
「ほら。僕にそんな敬語を使ってる」
「冗談だよ」
「冗談でも口にできる」
「ギャグだよ」
「まあ、おとなしくなったんだよ」
「それは言えてるなあ」
「青春時代の荒っぽさがない」
「荒っぽい人はいるけど」
「どこかで気づいているさ。言うほどの荒さのパワーは落ちてる」
「で、君は劇的なものはもういいのか?」
「そうだな」
「じゃ、今は何を求めてる」
「安定したものかな」
「ありがちだな」
「楽しみ方が変わったんだ」
「ほう」
「劇的出来事は、当事者の心境だろ。本人が体験しないと味わえない醍醐味だ」
「そうだよ。だから刺激があっていいんだ。あのわくわく感がね」
「今は傍観者のほうが楽しめるんだ」
「じゃ、観客かい」
「そうだな」
「俺もそうなるのかなあ」
「徐々に似合わなくなるから」
「決まらないわけか」
「そう、ドタバタしているように見える。見苦しく感じてしまうんだ」
「テンションを落とせと言うこと」
「惨めに見える」
「それで君はおとなしくしているのか」
「以前ほど魅力的ではなくなったからね」
「ああ、でも暴れたいなあ」
「まあ、時間の問題だな」
「そりゃ寂しいですよ、ご同輩」
 
   了


2008年03月06日

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