小説 川崎サイト

 

彼が来る

川崎ゆきお



「彼がやって来る…」
 女は怯えていた。
「彼とは彼氏のことですか」
「違う」
「では誰ですか?」
「彼」
「男性ですか」
「はい」
「何処にやって来るのですか?」
「ここ」
「ここは診断室ですよ」
「来る」
「どんな男性ですか?」
「知らない」
「あ、はい」
「知らない」
「知らない男性がやって来るのですね」
「そう」
「受付を通らないとここには入って来れません。安心してください」
「でも、来る」
「年齢は分かりますか」
「知らない」
「でも、男性なのですね。女性ではなく」
「はい」
「大人の男性ですか?」
「はい」
「お年寄りの男性ですか」
「違う」
「どうしてそれが分かるのですか?」
「何となく」
「はい」
「何となく、そんな感じで」
「イメージはあるのですね」
「ない」
「じゃ、漠然と大人の男性が来るイメージはあるのですね」
「はい」
「はい」
「昨日も来ていた」
「はい」
「もう少しで、襲われるところだった」
「ほう」
「ドアが閉まっていたので助かったけど、ずっと近くにいた」
「思い当たる人はいないのですね」
「はい」
「ずっとあなたをつけ狙っているのですね」
「そうです」
「彼が来た時は分かるのですか」
「はい」
「今は?」
「まだ、来ていません」
「はい。じゃ、今日はここまでで」
「治りますか」
「改善しています。先週は熊が来ると言ってましたから」
「はい、ありがとうございました」
「はい、お大事に」
 
   了



2008年03月25日

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