小説 川崎サイト

 

分からない

川崎ゆきお



「最近よく分からない事件が多いですねえ」
「昔はもっと多かったよ」
「そうなんですか」
「情報が少なかったからね。今は多すぎる」
「多すぎて分からないという意味ですか」
「いや、そうじゃない」
「ほう」
「分からないと駄目なようなところがある」
「知りたいですからねえ」
「細部まで分かって、やっと分かったと思うようになったんだが、これはきりがないんだ。いくらでも奥へ入り込める」
「でも、よく分からない事件が多すぎますよ」
「深い理由はないんだろ。単純すぎるため、分からないんだ」
「単純なら、分かりやすいじゃないですか」
「そんな単純な理由で、とかが分からないんだ」
「もっと複雑な理由があると思いますからねえ」
「それが、ないんだ。それがないのに、理由を探ろうとする。だから、分からなくなるんだよ」
「でも単純な事件ばかりじゃないでしょ」
「そちらは案外分かりやすい。頷けそうな理由がある」
「じゃ、分かりにくいのは単純な事件なんですね」
「それ以上掘っても何も出てこない」
「そういう事件が多くなったのですね」
「と、いうことだ」
「それって、何でしょ?」
「何が、何でしょ…なんだ」
「人間が単純になったのですか」
「いや、複雑になってる。だからこそ、それらを取っ払った単純なものに走ることになる」
「単純なほうが居心地がいいですからねえ」
「だが、世の中は一度複雑になると、なかなか単純には走れないんだよ」
「シンプルイズベストでもいいんじゃないですか」
「単純なだけではやって行けない社会だからね。いろいろな手続きがあり、それにつき合わないと事が進まんでしょ」
「ますます分かりにくくなりましたよ」
「感情の繋がりが見えにくいんだよ」
「根本にあるものは変わらないでしょ」
「それをうまく調整するのが文化だよ」
「じゃ、文化が弱まったんですね」
「分散したため、流儀が違う者がぶつかり合うんだ」
「でも、そんな解説を聞いても、解決しませんねえ」
「まあな」
 
   了

 


2008年04月3日

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