小説 川崎サイト

 

影の一族

川崎ゆきお



「影は知っていた」
「ほう」
「歴史の暗闇を」
「スケールの大きな話ですなあ」
「なぜ?」
「歴史の話なのでな」
「ああ、そうですね」
「影とは何でしょうな。影が知っているわけですから、影は人間のことでしょうかな」
「そう、影の一族です」
「ほう」
「影の一族が、あらゆる所で暗躍し、裏の事情をよく知っている」
「そんな一族、どこにいるのでしょうねえ」
「影は正体を顕わさない」
「だから、見えないと」
「見られてしまうと影ではなくなる」
「それであなたも影の一族なのですかな」
「私は影の一族の動静を伺いし者」
「それは御苦労様なことで」
「闇から闇へと葬り去られた情報を集めし者」
「裏情報ですかな」
「それに近いものです」
「ですがね、影の一族とは、ちと古臭いと思いますが」
「そう呼ぶところの集団だ」
「血縁関係のある一族ではないのですね」
「いかにも」
「それで、現実問題としては、どうなのですか? 役立つ情報なのですか?」
「そんなことを言っていない」
「はあ」
「影が知っていると言ったまで」
「その影とは、影の一族という集団なんでしょ。何をやる集団なのです」
「世間の裏で暗躍せし者」
「だから、どんな暗躍をやってるのですかな。まさか黒装束で走っているとは思えませんが」
「本当の現実を動かせし者共」
「それは人間なのでしょうねえ」
「そうだ」
「その妄想はいつ頃から?」
「妄想にあらず」
「その種の御本をたくさん読まれたとか?」
「それもまた参考になる」
「影の一族はあなたの中にいるのですよ」
「それが影の一族の宿命」
「はいはい」
「影は知っている。すべての事実を」
「また、症状が出たら、来てください」
「馳せ参じましょう」
 
   了

 


2008年05月06日

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